03-2

赤色の上に、黒と青のアメが乗る。


「なんだ、巽くんもですか」

「直斗もかよ」


どちらからともなく、彼らは笑う。


「ちょっと、二人ともどいてよ。私達入れられないじゃん」

「センセイ、はい!クマのもあげる!」


その上から、なだれ込むようにピンクと黄色のアメが落ちてきた。見上げればりせもクマも笑っている。
なんで、皆笑ってるんだろう。中身の無い瓶を抱える自分の姿はひどく滑稽だ。嘲笑うなら理解できるけれど、これは、


「なんで…」


―――――なんでそんなに、やさしそうにわらうの。


「鳴上先輩は、皆に与えてしまうんですね」

「あたえる?」

「そう。自分のことは二の次で、人の為に働いたり、励ましたり、時にはその人の代わりになっていたり。決して貴方自身には関係ない事でも、それで貴方が疲労したり、損したりしても、貴方はいっそ鈍感なほど気にしない。貴方は空っぽの瓶のことを自分だと言いましたけど、それは違います」

「空っぽな人間が、んなに人の為に這いずりまわれるかよ。アンタは蓋がどこいったかわかんなくなるくらい、ずっと前から、人に"アメ"をあげてたんだろ」


鳴上悠の、唯一の特技で欠点。それは、欠点と呼ぶには泣きたくなるくらい優しくてあたたかく、長所と呼ぶには儚いもの。


「センパイ、りせ知ってるよ。センパイが助けたいろんな人は、センパイからいろんなものをもらって笑顔になるの。すごいね、アイドルにもできないよ」

「センセイは空っぽじゃないクマ。クマはよーく知ってるクマ!」





(…そう、ほんとうは、ずうっとまえからきづいてた)


でも、与えた後の人の笑顔を見るのが好きだから。人が好きだから。どうしようもなく、目の前の世界を愛しているから。

だから鳴上悠は自分のずっとずっと底にある"不安"に"蓋をした"。いつも目の前の世界はキラキラと輝いていてほしいから。霧に淀んだ世界でも、きっと皆と走り続ければ世界は輝くと信じていたから。結果霧は稲羽からもテレビの中からも消え去った。しかし、視界が開けると同時に見えたのは、ずっと押し隠してきた"不安"だった。

―――――皆成長シテイルノニ オレハ ドコカ成長シタダロウカ

―――――オレノ 特技ハ ナニ? ユズレナイ ジブンハ ドコ?



(…おれはなるかみゆうの"不安"そのもの。そしておれにのこったのは、からっぽの瓶だけだった…)


シャドウは抑圧下の心。成長する友人や町の人を見て膨らみ続けた"なんにもない"という"不安"は鳴上悠の恐怖や悲しみを飲み込んで、瓶から溢れてシャドウになった。中身の無くなった瓶が不安で不安で仕方なくて、とりあえず"本物"を詰めてみた。でも結局抱える瓶は空のまま。本物は入りきらなかった。だって入っていたのは"不安"だけだったのだから。完二は蓋はどこかに行ったと言っていたけど、本当は違う。蓋は壊れてしまったのだ。そして気付いてしまった。ここに元々入っていたものは、"不安"と引き換えにあげてしまったということに。


「大事なものを、大事な人にあげちまってたら、そりゃ無くなっちまうよな」


花村が頭を撫でる。抱える瓶にはいろんな色をしたアメ。虹色のような色彩ではないけれど、それは何よりも綺麗に見えた。


「―――――それが、お前の"色"だな」

「…どれがおれ?」


少しひねくれた返事をした。もう、彼らに勝てない事はわかりきっているけれど。


「ばあか。これ全部がお前だよ。今度はきちんと蓋しとけ。自分を"惜しめ"。無くなりかけたら言え。お前は、一人じゃねえんだから」




「―――――うん」


彼らは笑う。嗚呼、やっぱり世界は、輝いている。




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