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結論から言うと、鳴上悠のシャドウは騒動は起こしたものの暴走はしなかった。テレビに引きずり込まれた時点で本体の鳴上は意識を強制的に失わされていたため肯定こそしていないが否定もされなかったこともあるが、鳴上悠自身の"不安そのもの"が解消されたということが大きな原因だと思われる。あの後鳴上のシャドウは消えた。それはそれは、幸せそうな表情で。

鳴上悠が創り出した世界は、文字通り透明だった。すべてガラスで出来た世界。鳴上を送り届けた後、フードコートでメンバーで話した時も、そのことが話題に上がった。


『あれは、正しく鳴上先輩そのものなのでしょうね』


透明。それは光も闇も全て通してしまうもの。真面目だが柔軟性が高くて、ちょっと天然で、色んな意味で正直な彼にそれはピッタリだ。しかし言い換えれば無色ということなのだから、『鳴上悠には色が無い』ということになってしまうのだろう、と白鐘は複雑そうに零した。


『でも、あれはあいつの"色"だろ?』


だからこそ、花村はそれを"色"と呼んだ。鳴上悠の性質を表す、唯一無二の色。それは光も闇も、それこそ全てを受け入れて輝く、綺麗な色だ。
花村は目の前の小さな瓶を見る。昨日フードコートで話した時に思いついたもので、今他のメンバーはこの中に入れるものを調達中だ。花村が全て買ってこようと思ったのだが、皆「自分のぶんは自分で探す!」と言って散って行ってしまった。今あるのはその瓶と―――――中に入れる、小さなオレンジ色のガラス玉だ。

テレビから脱出した後、目を覚ました鳴上は自分のシャドウが出てきたことなどまるで覚えていなかった。シャドウが出るまで我慢していたことに対し全員で説教してやろうと勢い込んでいたのに、当の本人ときたら「なんかすっきりした」というよくわからない感想をくれた。事情を説明すると申し訳なさそうな顔で謝られたが、覚えてないことを無理に思い出させるのもどうかと思うし、そもそも自覚が無い奴を怒るに怒れず、説教は無しになってしまった。それでも彼にシャドウが生まれてしまったのは事実であり、自覚が無いということはまた知らないうちに抑圧してしまうかもしれない。これは気休めだと、花村も他のメンバーもわかっている。しかし、何もしないままではいたくないのだ。


「せんぱーい、買ってきたよー!」

「クマもー!」

「巽君のは綺麗な黒ですね」

「あ?おう…直斗の青もな」

「綺麗なの見つかってよかったよねー」

「千枝すごい拘ってたもんね」


煩いメンツが帰ってきた、皆思い思いの自分の色を携えて。この後も騒がしくしながら、この瓶に自分の色を詰めるのだろう。


(なあ、知ってるか?相棒、)




―――――お前が人を愛するように、俺達もお前のことを愛しているんだ。


affettuoso!(愛情込めて!)


(彼が帰る日に、その瓶をプレゼントした。覚えていないはずなのに、「ありがとう」と言った彼の顔は、あの時のシャドウとそっくりな、幸せそうな笑顔だった。)

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