02-1

空っぽだから。彼はそう言った。


「おれにはなにもない。なんでもやればできるけど、なにもないんだ」

「何も、ない?」

「おれがゆいいつできること。おれにしかないもの。おれがおれのなかでゆずれないとおもうもの。それがないから、アメのいろがわからない」


幼い鳴上悠の姿を象ったシャドウはそう言って項垂れた。小さな姿が余計小さく見えて、メンバーは全員何もできずに立ちつくす。「そうではない」と言いたい。しかし、彼が何色かと答えられるかというと、それもよくわからないのだ。彼は何ができるのかと言われると「何でも」と答えるしかないし、何ができないのかと言われれば「思いつく限りでは無い」、というのが答えだ。彼は何でもできる。「そつがない」「完璧」とは彼の為にある言葉だと、メンバー全員が思っている。


(あれ、)


花村は首を傾げた。彼は「完璧」だからシャドウが出ないものだと、ずっと思ってきた。彼はメンバー1冷静で、複数のペルソナを扱うことができ、料理から皆のまとめ役までこなす、非の打ちどころのない人間。しかし実際には彼にはシャドウが現れているし、きっと鳴上に意識があったなら、彼の一言でこのシャドウは暴走してしまうだろう。そこの辺りは花村達と何ら変わりないはずだ。

シャドウとは、抑圧下の自分の心。本音。なんでもできる。でもなんにもない。「完璧」は無いのと同じ。


(そっか、あいつ…)


彼はいわばメンバー全員にコンプレックスを抱いているのだ。花村は自分自身の良い所なんて思いつきもしないが、例えば里中はあの足技が特技だ。同じような特技で言うなら完二は裁縫、りせはアナライズ。クマだってテレビの中で探索に役立つものを作ることができ、直斗や天城はそれぞれ違う方面の鋭い洞察力を持っている。そんな突出した何かを、鳴上悠は持っていない。それがなんでもできる、けど何も無いということなのだろう。


(…なんだよ、それ)


鳴上悠は「一番大事な事」をすっぽり抜かしている。それはおそらく花村含めたメンバー全員は当たり前すぎて言わなかったことで、彼も理解しているものだと思っていたのだが。


(いいさ。それなら―――――)


それなら、わからせてやるまで。








[ 2/7 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -