"裏"側の世界、おいかけっこ開始。

舌打ちしたい気分だった。
今私は自分の教室の四隅に塩を盛って結界を張り、七緒と一緒に教室に閉じこもっている。外は依然として雨が激しく降っているが、そんなものは『向こう側』から出られれば止むだろう。問題はこっちだ。


(早く帰れよレギュラー…!)


私たちがいる三階の教室窓からちょうど見える空き教室に集まる男テニのレギュラー達。もうじきあの教室も彼らの纏うあの黒いもやに惹かれて『向こう側』に飲み込まれてしまうだろう―――――幸村のように。


「咲…」

「わかってる」


鞄を漁る。本当は私も七緒も『こういうこと』の専門ではないからこんなことはしてはいけないのだが、緊急事態だ。
私が出したのは、小さな紙だ。八枚取り出し、窓を少し開けて息を吹きかける。
すると八枚の紙切れは意思を持ったように動きだし、レギュラー達のいる空き教室へと飛んで行った。


「これでよし、と。」

「咲、水」

「ありがと」


七緒に渡された水の入った小瓶をポケットの中に突っ込む。七緒も同じように入れたことを確認すると、私は自分の制服のネクタイで七緒の手と自身のそれを繋いだ。これは『向こう側』で見失わないための策だ。携帯電話は役に立たない、というか邪魔なので置いていく。


「さ、行こう。幸村を探さないと」

「うん」


結界を張った教室を出て、私たちは暗い廊下を歩き出した。








幸村は走っていた。早く、早くと気持ちが急く。早くしないと、追いつかれてしまう。
走れ、走れ、走れ。

後ろから追いかけてくる音がする。出会った時はかなりそいつとは距離があったはずなのに、もうすぐ後ろまで来ているような気がして、幸村はゾッとした。
幸村は怪談になど全く興味は無いし、信じていない。逆に死者が化けて出てくるなどという話は不謹慎だと思っているので嫌いな部類に入る。
しかしそんな幸村でも、今現在追いかけてきているそれの名前くらい知っている。下半身の無い姿、両腕を使う移動、なにより先程から聞こえている音。



テケテケテケテケテケ…



通称「テケテケ」。まさに今、幸村は妖怪と生死をかけた鬼ごっこをしていた。



06.背中合わせ
(何と?)(もちろん、死と)

お題配布元:「夢紡ぎ」様より選択お題435

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