"裏"側の世界、迷い子がひとり。

幸村は、校舎が異常に静まっているのに気がついた。

当然のことだが、部活が終わっても先生や警備員の人がまだ校舎内で仕事をしている。だから今日のように大雨で日光が遮られても、校舎内は電気がついているので明るく、教室からも話し声が聴こえてくるはずである。

なのに、今の校舎は廊下にもどこにも電気はついておらず、日光も無い為に夕方とは思えない暗さと不気味さを醸し出している。それだけでも何か嫌なものを感じるのに、その上幸村にはまだ何か違和感があるような気がしてならなかった。


(何だ…?)


言い知れぬ不安を感じた幸村は、とりあえず部員に「着替えて雨が弱まり次第帰るように」と指示を出そうと、振り向いた。


「?!」


幸村は硬直する。そしてやっと自分が違和感を感じた訳を理解した。


―――――幸村の後ろについてきていたはずの部員が、一人残らず消えていたのだ。









「なんだ…?何が起こった?」

「幸村部長が…」


同時刻、立海大附属男子テニス部は混乱していた。急に降ってきた大雨でやむなく部活は中止、幸村の指示に従って全員校舎へ駆け込んだのだが。


校舎に入った途端、部長の幸村の姿が文字通り消えてしまったのだ。まるで映像が突然切れたように、ぷっつりと。

動揺を隠せないのは、レギュラーも同じだった。しかし彼らはまだ冷静であった。すぐに真田と柳が混乱を収拾し、弱まった雨とともにレギュラーを残して解散させる。部員たちが怪訝そうな面持ちで帰っていくのを見届けた後、柳の提案で空き教室に入った。


「先程のこと、どう思う」


切り出したのは真田だった。


「俺には幸村が突如消えたように見えたが…」

「俺もっす。瞬きした瞬間にはもう…」


柳の言葉に切原も不安げにそう返した。ほかの面々も同じ意見なようで、空き教室に沈黙が落ちる。


「あの…」


控えめに発言したのは柳生だった。目で促してくる真田に、言いにくそうにしながらも口を開く。


「先程、私も幸村君の姿を見ていたのですが…ちょっと気になることが」

「何だ?」

「今、校舎内は明かりがついていますよね?」

「それはそうだ。まだ生徒もたくさん残っているし、先生方が帰られるのは生徒が帰った後だからな」

「そう、なんですけど…先程は『ついていなかった』んです」


その言葉にその場の全員が不審な目を柳生に向けた。それに慌てて言葉を返す。


「あ、いえ…言葉が悪かったようです。幸村君が校舎に入る前に、校舎内の教室の電気はついていました。気になっているのは正面玄関の電気です」

「玄関?さっきついてたじゃねーか」

「ええ…でもおかしいんです。私が雨の中で前方を見たとき、幸村君の背中越しに見えた正面玄関の電気はついてませんでした。真っ暗だったんです。そして幸村君の背中が突然消えて…次の瞬間には、電気がついている正面玄関に、私たちは立っていたんです」


―――――まるで、暗闇が幸村君を飲み込んでしまったように…


柳生の言葉に嗤う者はひとりもいなかった。その場の全員が、何かわからぬ不気味さに寒気を覚えたのである。


05.離別
お題配布元:「夢紡ぎ」様より選択お題273

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