"裏"側の世界、生死をかける。
私と七緒は『向こう側』へと足を踏み入れた。校舎は暗く、足元も見えないので注意深く進む。しかし気配が揺れたのに、足を止めた。どうやらレギュラーは幸村を探しに行ったらしい。
「…レギュラー達が動き出した…」
「咲、どうしよう…」
七緒が不安げに私に問う。幸村以外のレギュラー達には一応防衛策はとっておいた。あれがあれば少しは時間が稼げる。
「とりあえず、幸村を探そう。早めに見つけ出さないと…妖怪がもう騒いでるから」
言いながら私は神経を研ぎ澄まして幸村の気配を探る。しかし妖怪が妨害しているのか妖怪が多すぎるのか全く感知できない。
(学校の七不思議…今までお目にかかったことはないけど)
こんな真っ黒い気が立ち込めているなら、おそらくは。私は最悪『最終手段』を使うことも覚悟して、真っ暗な校舎を七緒を連れて歩き出した。
一方、テニス部のメンバーは幸村を探しに空き教室を出て唖然としていた。教室を出るまでは普通だった校舎が、出たとたんに真っ暗になり、人気が無くなったのだ。廊下は一寸先は闇かというように先が見えず、一同は薄気味悪さを感じた。
「な、なあ…本当に幸村君ここにいんのかよぃ?真っ暗だぜ」
「そのはずだ…だが、精市はおろか人の気配すら感じられないとは、一体…」
「とにかく、校内を一通り回るぞ。話はそれからだ」
真田のその言葉に一同が頷いた。その時―――――
…ック…グス……ヒック…
『?!』
誰かの泣き声。それは幼い少女の声で、軽いぱた、ぱた、という足音と共に近づいてくる。
普通の迷子とかなら柳生や丸井辺りが少女の相手をするところなのだが、よく考えてみよう、ここは夕暮れ時の中学校である。幼い子供の声なんて聴こえるはずないのだ。
…ヒック…グス…フ…
ぱた、ぱた、ぱた、ぱた。
真田たちに緊張が走る。足音は彼らの真後ろで止まった。泣き声は依然として止まない。絶対におかしな状況下で、何を思ったか切原はちらり、と後ろを見てしまった。
「ヒッ…!」
引き攣った切原の声。それに気付いた真田たちも一斉に後ろを振り向いた。
―――――…グス……オニイチャン…寂シイノ…ワタシト、遊ンデ?
泣いていたのは、幼い少女でも人間でもなく、青い眼から赤色の涙を流した、体中ズタズタの人形だった。
07.狂気
(その眼は語っていた、)(命ガ欲シイ、)
お題配布元:「夢紡ぎ」様より選択お題111
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