火曜日、教室にて。

ふらり、と帰ってきた私を見て、先生はビックリした顔でどうした、と聞いてくる。どうしたじゃねぇよ、と思いつつも、テニスコートの女子たちに揉まれ気分が悪くなった、と言う。もちろん嘘っぱちだが、あんまり私の顔色が悪かったのだろう。先生は申し訳ない顔をして、「書類は俺が渡しておくから、もう帰れ」と言われた。結局私が持っていく意味はあったのか、と先生に軽い殺意を抱いたが、せっかく帰れるのだから何も言わないでおく。もう二度とテニスコートなんて行くもんか。


次の日の火曜日、私は昼休みに親友の七緒を呼びに隣のクラスへやってきた。七緒は私を見つけてうれしそうに駆け寄ってくる。可愛いなぁ、と思っていると、クラスの端の方の席に座っている男子生徒が目に入り、固まった。


「精市、大丈夫か?」

「ああ、平気だよ。ちょっと最近寝不足みたいでね…」

「もう俺達は引退だとはいえ、あまり無理をするな」

「ありがとう、柳」


黒い煙が彼らの周りを渦巻き、彼らを霞ませている。固まっている私の視線がどこに向いているのか気がついた七緒が、心配そうな顔で耳打ちしてきた。


「ね…男テニの子達大丈夫かな。あの黒いの、日に日に濃くなってるの」


七緒も「視える」子だ。私は小声で「たぶん、大丈夫じゃない」と囁いて、七緒と一緒に人気の無い中庭へと歩き出した。





「あれは、ちょっとやそっとじゃ取れないだろうね。人の思念が密集して怨霊化してる」

「そんな…」


中庭で弁当のおかずを突きながらそう言えば、七緒は眉を下げて落ち込んだ。そんな七緒を見て、私はため息を吐いた。


「七緒、助けたいとか思ってるでしょ」

「えっ!えーっと…ばれた?」


わかりやすい。私が怒っているとでも思ったのか、七緒は首をすくめて私を見た。私はふう、とため息を吐くと、七緒と向き合った。


「あのね、七緒。私たちはプロの退魔師でもなけりゃ陰陽師でもない。ただ少し人と違ってて、それで多少自己防衛できるぐらいの技量があるだけ」

「うん…」

「そんな私たちが一人二人まとめてかかったところで、逆に喰われちゃうのがオチだよ」

「…うん…わかってるんだけど…」


七緒は私から目を外して、目の前にある中庭の花壇を見た。


「あの花壇ね…幸村君が一生懸命育てた花がいっぱい咲いてるの」

「…」

「あんなに綺麗な花を咲かせることができる幸村君が、あんな風に憑かれてるのが、なんか、いたたまれなくて」


お人よし。私はため息をついた。


「…言っても無駄だったかね。どうせ私が何を言っても助ける気だったんでしょ」

「…えへ」

「全く…」


おちゃらけたように笑う七緒に、呆れてしまう。このお人好し娘は霊一匹祓えないくせに助ける気満々だったらしい。


(…しょうがないなあ)


この子がやりたいというなら、私には拒否権はないじゃないか。


「しょうがない、協力しようかね。…面倒だけど」



02.貴方の隣
(やったー!咲大好き!)(はいはい、)
お題配布元:「夢紡ぎ」様より選択お題66

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