「おう、ソウの旦那じゃねえか」


俺の後ろでヒッ、という声がした。ミドリは本当にクロが苦手なようで、その大きな身体で必死に逃げようとする。しかしクロはそんなことは絶対許さない。ここはクロの"仕事場"、テリトリーだ。


「ミドリ、逃げようったってそうはいかねえからな?ここの扉はおめえじゃ開けられねえだろ」

「くくくくクロさんってば、やだなぁ!ぼぼ、僕そんなことしてませんよ?」

「ほーう?ならこのおめえに特別に作ってやったドリンクくらい飲むよなあ、ミドリ?」


クロの悪人顔にミドリは悲痛な声をあげた。クロは元々顔が強面なのだから、そんな顔をしたらたとえミドリでなくとも怖いに決まっている。器に出した液体だって、毒とかそんなものではなく、葉っぱが足りてないミドリの為にクロが作った栄養剤のようなものなのだ。しかしミドリはどうもその言葉そのままを受け取ってしまうので、クロは相当な恐ろしい生物に見えているに違いない。クロもそれがわかっていてやっているのだから余計である。


「クロ」

「はいよ。お嬢、今日はどんなご用件で?」

「食料と刀の新しいのを」

「お嬢、また壊れたんですかい。ソウの旦那はいつものように弾の補充かい?」

「うん」


クロは俺の半分も背がないが、器用にたくさんある脚立を登ったり降りたりして必要な物を手に取っていく。ミドリは先程出された飲み物を怯えながら見つめたり臭ったりと、出来得る限り安全性を確かめている。カズイは近くにあった椅子に腰かけて、その辺にあった絵本のようなものを開いて読んでいた。そうこうしているうちに頼まれた物を全て揃えたクロは、商品がいっぱいに詰まった籠を渡してきた。


「ひひ、どうぞ」

「ありがとう」

「お礼なんざいりません、これはれっきとした商売なんでねぇ。…おいミドリ、まだ飲んでなかったのか?もう取引は済んじまったぜ」

「だだだだって…!」


ミドリはぐずぐず言いながら、結局その液体を飲まされた。どうもクロが味をひどいものにしていたらしく、まだ泣き声のような唸り声をあげていたが、何も言わず籠と俺たちを背に乗せた。早く立ち去りたいらしい。


「では旦那方、また"印が十になるとき"に」

「じゃあな、クロ」


その言葉を合図に、目の前の扉が勝手に開く。俺達はミドリに乗って、その場を後にした。





04.便利屋さんのクロ
(でも、あいつもヒトではないんだよなあ…どうでもいいけど)


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