ソウさあん、と情けない声がする。ついでにのしっ、のしっという重たい足音も一緒に声は近付いてきた。またか。俺はため息を吐いた。


「何?」

「どうしましょうどうしましょう、葉っぱがない!」

「お前が食ったんだろ」

「そうなんです、あれは明日に残しておこうと先程思ったばかりなのに!でも気がついたら食べていたんです!どうしましょう!」

「知らない。自分で取りに行けば?」


一応そう言ってみる。すると、目の前の生き物はそんなあ、と涙に声を震わせた。そんなミドリは俺よりも数倍でかい身体をしている。俺は読んでいた本を閉じた。
彼、なのか彼女、なのかわからないが、一人称は「僕」だから彼、と呼んでおこう。彼はひどく臆病者だ。風が吹いて自分の肌を撫ぜるのにも怯える。きっとここに蟻みたいな彼なら簡単に潰してしまうような生き物でも、彼は怯えるのだろう。


「僕には無理ですよう。僕が取りに行ったらすぐ殺されちゃうに決まってます」

「クロに頼めばいいじゃないか」


そう言ったら彼はますます泣きそうになってぐずりだした。クロと彼が合わないのは知っている。というよりあれはクロがからかっているのを彼が真に受けているだけなのだが。実際彼には戦闘能力なんて無いに等しいが、それでも彼は一番足が速い。彼が行ける範囲なら、俺やカズイを乗せていってくれたりもする。目の前の彼は、良く言えば真面目で純粋、悪く言えばちょっと被害妄想が激しくてネガティブ思考。でもまあ、それはしょうがないことなのか。


「僕、はやく大人になりたいです。クロさんもそしたら認めてくれると思うんです」

「お前、まだイモムシだもんなあ」


はい、はやく蛹になりたいです。と、目の前の大きな幼虫は未だ涙声でそう言った。




03.大きくも幼い子ども。
(きっと大人になったら綺麗な蝶になるんです!)





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