昨夜便利屋によって部屋に連れ込まれ、散々啼かされたあとの記憶がない。
身体はやけに重くて腰が軋む。
大人の男二人が寝るには小さいベットで自分の腰を抱き、今だ眠る便利屋を引き剥がして自分の体を見る。
声にもならない怒りを夢の世界に居る便利屋の頭に落とす。


「〜ッてーーー!!」
「…便利屋。これは何」
「え、なん?え、虫刺され?」
「…ほう、虫刺されが何故無数にあるのに痛くも痒くもないわけ?」


真っ白とは言い難いシーツを身に繰るみ、下着一枚で体を縮こめて頭に出来た瘤を擦る男を見下ろす。
シーツを捲り中を覗こうとする手を躊躇せず踏み潰して睨みつければ朝から醜い声が叫び渡る。
煩い声に耳を塞げばシーツは床に落ち、赤い花が散らばっている肌が現れる。
床に落ちている下着を身に着け、勝手に洗い立てであろう便利屋のシャツを着る。


「あ、それ俺の…」
「何か文句あるの?」
「…無いデス」


もー情報屋ってば怖ぁーい!と枕に顔を押し付けるのを見て少し吐きそうになる。
便利屋のシャツは自分には少しばかり大きく、首元を隠したかったがどうも上手くいかない。
手持ちの服はすべて襟ぐりが広く、肩まで露出するくらいの物しかない。
だから首元に付いた事情の痕を隠せる服なんてこの部屋の住人のものしかないのだが、襟を立ててもなかなか隠れない。


「もう、なんでこんなとこに付けるかな」
「情報屋は俺ちゃんのものって見せつけっためだろー」
「…わけわかんない。これじゃ仕事が出来ない。あんたもジゴロならわかるでしょ」


痕を付けられたら他と出来ないじゃないか、と背を向けてズボンを履きながら言う。
人の仕事の邪魔をするような男じゃないのは分かっているがこうも沢山痕を付けられると腹が立つ。
一番簡単な方法が対象者と寝て殺す。
それが自分の仕入れ方法だったのにそれが出来なければ商売にならない。
途端に背中の弛んだシャツを後ろから引かれ、片足しか履けていなかった体はバランスを崩してベットへと倒れる。


「ちょっと、便り…ッひゃ!ン、ふぁッ、ん!」


暴れる手足を体で押さえつけて手で顔を固定され深いキスをされる。
くちゅ、と唾液の混ざる音が空間に広がり、首元に流れた。
するすると肌をなぞり胸の飾りを摘み上げ、抵抗している体は嫌々でも反応する。


「や!や…めッ…あ、あ、あッ」


胸の飾りを弄っていた手を下へ下へと下げ進み、膨れ上がってしまったそれに手をやる。
下着の上から形を添うように扱えば、徐々に下着に染みを作る。
慣れた手つきで下着の中に手を入れて直接触られて声があふれ出る。


「んんッ!んぁ、あ、あぅ…や、だッ」


亀頭を親指で扱われれば甲高い声が部屋に反響し、びくびくと足が跳ねる。
耐えられずに零れ出てきた蜜を潤滑剤に扱う速度を上げられれば身体全体が痙攣するかのように跳ねる。


「だめ、い、イクッ…ッやぁ!あ、ああ、ッ」


どこがいいのか知りつくされた身体はすぐに白濁を吐き出し、ぱたぱたと腹に散った。
何も言わず行為を始めた便利屋に少しは自由の利く片足で鳩尾を蹴り上げて、続きの行為をやめさせようとする。


「ハァ、ハァ…ッん、あ…死ねよマジで。キスなんて、するな」
「…ったー。鳩尾は効く…ッ」
「ヤリたいだけならジゴロがあんだろ…ッ、この為にここに住まわせたなら俺は出ていく!」
「…ッ!おい、」「それに俺はあんたのもんでもなんでもない」
「……『ベネット』…」
「…、別に、睡眠なんて摂れなくても平気だし、テオ先生のとこでも寝れるし、金もあるからここになんて居なくても…」
「『ベネット』!!」


普段、大声で怒る事なんてない便利屋が声を荒げたことに恐怖が宿り、体が震えた。
名前を呼ぶなんて卑怯だと思う。
名前を呼んで怒った事なんて、昔ニコラスの刀で遊ぼうとしたときに怒られたときだけ。
驚いて少しだけ指を切り、血が流れ、泣きながら謝る俺を抱きしめて慰めてくれたあの時だけ。
なぜ今、その時と同じように抱きしめられているのか分からなかった。
そして今までしなかったキスまで。


「…すまねぇ…俺の我儘」
「意味、分かんないッ…離せッ」
「本当はさー、『ベネット』に仕事行って欲しくねーんだわ」


逞しい腕の中で動きもがいても、ぎゅっと力を込められ肩に乗せられた額に逆らえなかった。
暴れないと察したのか体を離して、右目に悲しみの色を浮かべてこちらを見る。
ゆっくりと頬を撫でる右腕に体が震えた。


「もう、辞めろよ…もういいから」
「……今さら、無理じゃん…情報なくて、仕事出来ないのあんただよ」


声も体も震えた。
顔を見れば頷いてしまいそうで、下を俯き言う。


「それに、気持ちいいことして、情報も金も入るこんないい仕事辞められない」


そんなこと嘘に決まってる。
そう言えば傾いた気持ちも泣きそうになった感情も抑え込める。
本当は気持ち悪い男となんて寝たくもないし、気持ちよくなんかない。
それでも辞めないのは昔の自分が決めた約束と、どうしようもないこの遺伝子。
男に堕落した娼婦の子供には天職だ。


「『ベネット』…」


呼ぶな、名前を呼ぶな。
あんたの声で俺の名前を呼ばないで。


「泣くなよ『ベネット』」


頬を撫で続ける手が零れた涙を拭い、泣いていることに気付かされる。
そうすれば塞き止めていた感情が溢れだして、ボロボロと崩れていくのがわかる。


「『僕』だって『ウォリック』が仕事行くの嫌だった…」
「…ッ」
「でも、娼婦の息子で子供のころから抱かれ続けてる俺とジゴロで女を抱いてるあんたじゃ話が違うんだ」





遺伝子レベルの話




(だから辞められないんだ)
(助けてくれた恩は抱かれて得た情報で返すから許して)



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