「え、今夜からここに住む?」


私はベネットの事務所から帰ってきた目の前に居る男3人に言った。
ウォリックはベネットに絡みついていて、それに無言で助けを求めるベネットをニコラスは気付かないふりをする。
ベネットが便利屋のこの事務所で寝てからウォリックは頻繁に情報屋の事務所に足を運んでいて、なんだか物が増えていた。


「でも、いきなりどうして?」
「いやー、その、」
【こいつ(相棒)が駄々こねたからだ】
「ちょ、おいニック!」
「…本当、俺迷惑してんだよね」
「でぇぇぇー…?」


もの凄く崩れた顔でウォリックが情けない声を出すのをニコラスは手をひらひらとさせて無視し、1階に下りていく。
それでもウォリックはベネットから離れないが、ベネットは無理に抜け出そうともせずそのままの状態でいた。
案外嫌でもないのだろうか、と思ったりするのはベネットの表情が以前より柔らかく感じたからだと思う。


「元々狭いのにごめんねアレックス」
「いいの。気にしないで?ウォリックが決めた事なんだから私が口を出すのって変だし」
「…それもそうか…てか、いい加減離れてよ」
「え〜、いい感じにフィットしててよー」
「俺、のど乾いた」
「よし!いつもの買ったんだぜ!まってろ!」
「あーはいはい」


ウォリックが急いでキッチンへ走って行く様を見て、ベネットは適当に返事をしていた。
でも隠れた髪から少し見えた表情はいつもと違って穏やかな表情だった気がする。


「ねぇベネット、ここに来たのって本当にウォリックの我儘?」


私の知っている限りのベネットは女性にはとても紳士的で、ウォリックとは少し距離を置いている感じ。
それは表向きそう見えているだけで、実際にはウォリックと関係が深いのだと思う。
ベネットは隠れていない瞳を揺らめかせ私を見た。


「…この前ここに眠りに来たのと関係してるの?」
「…アレックスは知りたがりなんだな」
「気を悪くしたならごめんなさい」
「そうだな…ニックには言われただろ?」
「寝てる時に部屋に行くなっていうの?」
「…小さい時にさ、母親に寝てる間に何回も殺されかけてんだわ」
「…!!」


ウォリックの書斎机に腰かけながら私にそういった。
ベネットの過去を初めて耳にした瞬間だった。
彼の両手のひらにある大きな傷跡の理由も、最近右肩を銃で撃たれたのが寝不足が原因だったのも初めて知った。
ウォリックもニコラスも、自分の事はもちろんのこと、ベネットの事は教えてくれなかった。


「…綺麗なお姉さんでもテオ先生でも、ニックでも駄目なんだわ。」
「ウォリックじゃないと眠れないのね」
「…アレックスとなら寝れるかも」
「…それじゃ私がウォリックに睨まれちゃうじゃない」


現に階段の下に居るのよ、ウォリックが。
確信を付いたのだろうか、綺麗に誤魔化されてしまったけれど、階段下に居るウォリックを見ればこれ以上聞いてはいけないのだろうと察した。


「お〜…ぃ」
「あの変わらない匂いが安心するんだよね」


少しの沈黙のタイミングでウォリックが階段を上がってこようとした瞬間、ベネットが笑顔でそう言った。
ふんわりと笑うその顔は営業スマイルなんかじゃなくて、まるで恋人に向ける笑顔だった。
思わずドキッとしたけど、ゴトンと瓶が床に落ちる音に体を揺らした。


「べ、便利…屋…ッ聞いて…?!」
「もー、なんて顔で言うんだお前は」
「い、居るならいるって言えよ!馬鹿!死ね!」
「死んだら一緒に寝れねーでしょ」
「ーッ!やっぱり帰る!」


くすくすと2人の行動を見て笑っていれば、真っ赤な顔をしたベネットが事務所を出て行こうとする。
そんなベネットを慣れた手付きで捕まえれば、そのまま横抱きにした。


「ほらほら照れてんなってぇ」
「は…離せー!」
「アレッちゃん!今日はソファで寝てくれん?」
「おい!何言ってんだよ!」
「え、構わないけど…まさか、」
「じゃ、おやすみな!」
「てめぇ!降ろせって!」


バタン、とウォリックの部屋の扉が閉まった。
ウォリックがわざわざ持ってきた、表通りで人気のグレープジュースの瓶を手にして1階へ降りる。
部屋に連れて行かれて、私にはソファで寝ろということはそういうこと。
彼らの関係は一体なんなのだろうか。
恋人同士にしては名前で呼び合わないし、甘い空気もない。
そもそも男同士なのだけどベネットの容姿はそこらの女性より綺麗だからありえなくもない。
それでも体を重ねてる理由は?
私のように体を売ってるわけではなさそうなのに。


【なんだ、飲まなかったのか?】
「飲む前に部屋へ行ったわ」
【…あっそ】
「ベネットとウォリックは恋人同士なの?」


考え事をしながら階段を下りていけばシャワーを浴び終わったニコラスが開いていない瓶を見て手話で話した。
結構覚えた手話を読み取って答えれば、ニコラスは読唇術で言葉を読み取った。
冷蔵庫に瓶を戻しながら2人の関係をニコラスに問う。


【どうだかな】
「え?」
まではあいつもここにんでた」
「ここに?」


ニコラスは濡れた髪をタオルで拭きながらソファに座って私にでも分かるよう、絞り出すように声を出した。


はあいつらも名前で呼んでた」
「でも今は…」
「仕の後始でヤルときだけ名前で呼ぶ」
「……そう、なの」
【ベネットがここを出てからそうなった】


急に手話に切り替わってきちんと読み取ることが出来なかった。
ニコラスはそれ以上何も言わなくなってブランケットに包まった。
シャワーを浴びて、2階のソファに横になって頭の中で話の整理を付ける。


「(なぜここに居て出て行ったのかなんて私が聞ける話じゃない)」


3人に昔からの繋がりがあって、入り込めない事情があるのは理解してる。
だけども心の隅で少し悔しい気持ちになった。
ここの人達の事、好きになってきたんだろうなと思う。
3人の仲がいい事に少し嫉妬してるんだと思いながらも笑みを浮かべた。


『…ひゃ、あ!!あ、あ…ッや!』
『ほら、声出てんぞ?アレックスに聞こえていいんか?』
『だ、てぇ…ッ!あ、ンンぅ!』

「………(聞こえてるわよ!!)」


ウォリックの部屋から聞こえてきたベネットの喘ぎ声が女の人みたいで驚いた。
声を抑えようとするベネットを見て楽しんでいるようなウォリックが想像できて、少しでもあの仲間に入りたいだなんて思った私を叱りたい。
それでもニコラスはこういう事をしないような話だったから、少し安心した。






傍観者モノローグ


(蚊帳の外にいるけどそれでいい)
(そして私は耳を塞いで眠りについた)




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