リビドーが死んだその日、泣き腫らした目のまま事務所に帰ればアレックスが慌てて濡れタオルやらなにやら世話をしてくれた。
どうやって2人と帰ってきたのか覚えていない。
昼間だというのに暗い裏道に足音を響かせて無言で歩き、ただ汚れた身体をシーツで拭かれ、服を着せられた。
事務所の固いソファに座らされていつも通りの2人にまた涙が出た。


「ベネット、目擦ったらダメよ?」
「…アレックス」
「ほら、お水飲んで?」
「さんきゅ…『ウォリック』は?」
「え!あ、今外で警察と…」
「…そっか」


きっとチャドさんだろう。
10年前のケリが付いたんだから。
水を一気に飲み干して、空になったコップをアレックスに差し出す。
不安げな顔をしてこちらを見るアレックスに笑顔で返す。


「もう、大丈夫だからさ、心配すんなって」
「……ベネット」
「んじゃ、ちょっとチャドさん殴ってくるな」
「…え?!ベネット?!」


窓の外を見れば壁にもたれるウォリックとパトカーにもたれるチャドさん。
どうやらニックは階段に座っているようだった。コップをテーブルに慌てて置いた音が聞こえたとき、窓に足を掛けて外に飛び出す。


「ベネット!ここ2階…?!」

「…ン?」
「…どわはっ!!!」


じーんと両足に痺れる感覚。
事務所の2階の窓からウォリックとチャドさんの間に着地して、すぐに体制を立て直す。
少し前のめりになったのを利用してそのままチャドさんの左頬を殴りつけた。
チャドさんは面白いくらい飛んでいき、地面に転がった。
ぽかんと大口開けて驚いているウォリックとニコラス、そして車内に居たもう一人の警察官。
そんな彼らを気にもせず、笑顔でチャドさんを見下ろす。


「ってーなこの糞ガキ!」
「…10年前騙されたお礼だこの糞じじい」
「…ッ!…そう、だな。殴られて当然だな」
「んじゃ、もう一発いっとくか?」
「ベネット、チャドさんが死んじゃうからなー?」
「こんなもんじゃ死なねーよな?チャドさん」


指の関節を鳴らし、ケラケラ笑う。
車内に居た青年は慌ててチャドさんの元に駆け寄る。
唇を切ったようで端から血が見えた。
じり、と地面を擦れば両脇から腕が伸びてきて後ろから固定される。


「…離せよ。便利屋」
「えー、折角ベネットがここに居んのに離すわけないっしょ」
「はーなーせ!俺はこの糞じじいをボコボコにしないと気が済まない!」
「ちょ、辞めてくださいよ!チャドさん大丈夫ですか?!」
「…じゃぁ君を殴ろう。えーと名前はなんだったかな。あぁコーディー君」
「え、僕名前名乗って…」


彼とは何度か会った事はあるが互いに自己紹介した記憶はない。
だがこちらは情報屋。
名前なんて聞かなくてもわかるさ。
ニヤリと笑えば、コーディーは肩を上げて身を固める。


「ほらほら、ベネットちゃんはお家に入りまぁーす」
「おいこら!!担ぐな!降ろせ!!!頭に血が上るだろ!!」
「ベネット!!」
「…?」


ウォリックに担がれてニコラスと共に階段を上がろうとした時、コーディーに支えられながら立ち上がるチャドさんに呼ばれる。
ウォリックの背中しか見えない状態だったのを首だけどうにか上に向けてチャドを見る。


「…すまなかったな」
「……ありがと、チャドさん」
「…!!あぁ、」





***







「素直になったなー」
「は?なんのこと。てか鼻血出たじゃん」
「でも口の悪さはこのままかー」
「…とりあえずそこどけよ便利屋」
「えー?どーすっかなぁー」


狭いベットに落とされ、覆い被さるように跨り額へキスをされる。
額を手のひらで拭い、シーツで拭けば口を塞がれた。
同時に鼻から出ていた血が頬を伝い、シーツを赤くした。


「ん、ふッ…んん、っん、」
「…ン、俺んこと、前みたいに名前で呼んでくれたら退いてやろっか」
「…ッ、まさか」


鼻で笑えばウォリックの顔が近づく。
あぁ、またキスされるのかと構えれば垂れた血をなぞるよう頬をべろんと舐められる。
驚きで硬直している間に鼻先まで舌が迫る。


「ちょ、ッんん、ば、かッ…ん」
「こーら、動くなってぇの。まだ血ぃ出てんの」
「んなもん舐めなくても…ッん」


酷く企んだ顔をしてもう一度鼻をしつこく舐める。
手で厚い胸板を押し返すもびくともしない。
舐めながら笑うウォリックは捲れ上がった服の隙間に手を入れ愛撫し始める。
ツンと尖った脹らみを転がしたり摘み上げればどうしようもなく反応する。
そのまま反応を見せているものを直接扱われ、息が上がる。


「…ッも、いいッ!」
「んちゅ、ほら血ぃ止まった」
「んぅ、ん、はっ」
「でもこっちは零れてきたってか?」
「ああッ!んぁ!んん、ッ」


ぐちゅぐちゅと音を立てながら上下に扱われて声を抑えることが出来ない。
零れ出た滴で濡れた指を凋みに這わせ、ゆっくりと中に挿入される。
何度しても慣れることのない違和感に体を震わせる。
いいところをわざと避けるように中を混ぜるその指に焦らされ、更なる快感を求めるためウォリックの首に手を伸ばす。



い。本する前に仕事だろ」
「………ニックぅー?」
「………」


がちゃりと音を立てて扉を開けて入ってきたニコラスは面倒臭そうに言った。
後ろには耳を真っ赤にして顔を伏せているアレックスが居た。
今の状態は上半身は服をかろうじて着て、下はズボンと下着の間にウォリックの手。
不貞腐れながらニコラスを見るウォリックの鳩尾へパンチを送る。
同時に足を回し、腰に蹴りを入れてウォリックの下から脱出する。


「さっさと仕事に行きやがれ変態」
「え!!ちょ、嘘でしょ?!なぁってば!」
【とりあえずその物を仕舞えよ】
「ほ、ほらベネットもちゃんと服着て?」


ウォリックによって殆ど着ていない状態のシャツと脱げかけていたズボンをきちんと着なおす。
下着から少し頭を出していたウォリックのそれをニコラスが嫌悪の目で見る。
その間に事務机の上のティッシュで鼻をかみ、鼻の奥に残っていた鼻血を出す。


「…ッ、はぁ…これどーしてくれんの?」
【知るか。ほっときゃ治まるだろ】
「治まるかよー…っくそー」
「おい便利屋」
「…んだ?」
「……何の仕事?直ぐ帰ってくるんか?」


扉の隙間から顔を覗かせてそう言う。
ぽかんとした表情で固まるウォリックとニコラスを見て、なんだか途端に恥ずかしくなってそこから逃げてソファに膝を丸めて座る。


「ベネット!ジゴロの方の仕事だけどすっぐに帰ってくっから!!」
「ちょ、早く着替えろよ!」
「ほんと可愛いーな!」
「うるさい!馬鹿!死ね!」
「ベネットってば顔真っ赤よ?」
【いいから早く行けよ】


その後しっかりとスーツを着こなし、髪型を整え終わったウォリックはアレックスに事務所の留守を頼む。
ニコラスはさっさと下階に降りてしまってそこには居らず、自分はそのままソファの上。
小奇麗にしたウォリックを抱えた膝の隙間から見ていればなんだかムッとする。


「んじゃ、俺ちゃん行ってくっから、ベネットと留守番よろしくなー」
「わかったわ。いってらっしゃい」
「ベネット?いってくっからな」
「……いってらっしゃい、ウォリック
「え、いま…え?!名前呼んだ?!」
「よ、呼んでない!さ、さっさと仕事行けよ便利屋!!」
「おい!銃出すなって!うぉっ!」
「ベネット!室内で発砲しないで!!」


ソファ前の小さなテーブルに置いておいた自分の愛銃でウォリックの足元を狙う。
事務机の椅子に座っていたアレックスは立ち上がって制止を求めたが、それでも何度か発砲する。
焦りながらも顔がにやけているウォリックは避けながら扉を抜ける。


「もー危ねぇってぇの。んじゃ後でたっくさん構ってやるからお利口になぁ」
「……早く帰って来ねぇと殺すかんな」
「おーおー怖い怖い」


ちゅ、と投げキスを送りながらいってくると告げ出たウォリックの後ろ姿。
それを見てからソファに座りなおして、また膝を抱えた。
つまらない、そんな顔をしたらアレックスがクスリと笑った。


「ねぇ素直に言えばいいんじゃない?」
「……何の事かな」
「ふふ、何でも。あ、電話…はい、お電話ありがとうございます。便利屋です」
「………はぁ」
「ベネット、あなたに電話みたい。パジャッソって人から」
「…!!」







(まだ多くある秘密の情報は公開しない)
(教えたらあなたが困るでしょう?)


それでも君を愛してる



























『―――次のニュースです。本日未明6番街の……廃工場で複数の男女の腐乱死……が発見…ました』



『遺体はど…も破損が激しく…』



『一部……が鋭利な刃物…によ……』



『警察…捜査は難航す…と見られ……』






ブツン――――ッ















END?



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