『―――次のニュースです。本日未明6番街の……廃工場で複数の男女の腐乱死……が発見…ました』
『遺体はど…も破損が激しく…』
『一部……が鋭利な刃物…によ……』
『警察…捜査は難航す…と見られ……』
質素な事務所に、唯一ある音声機器のラジオから聞こえてきた声を後ろにやって、部屋を飛び出した。
二階の窓から聞こえたアレックスの声も無視して走った。
ニコラスに一言いえばよかったと後悔しながら。
「……、はぁ、ッ」
たどり着いたのは自分の事務所…のはず。
綺麗に整頓してあった書類や本は破かれてそこら中に散らばり、ソファーだった物はナイフで切り裂かれている。
お気に入りだったマグカップや、観葉植物の鉢は割られて見るも無残な状態だった。
「…くそっ」
大金の入った金庫や生活品は既に便利屋の事務所に移してあったし、書類として置いてあった情報は特に重要なものでは無い。
だからそこまで気にしないが、この状況に虫唾が走る。
散々荒らされた部屋を見て、落ちていた破片を蹴りあげる。
RRRRRR!
と聞こえた電話を知らせる着信音。
荒らされたこの状態の中からどこかで鳴っている電話を探し出す。
『やぁ、どうだぁ?俺のプレゼントは見つけたかァ?』
「……パジャッソッ」
『ククッ。そんな怒んなってぇ』
「人ん家の壁に血でお絵かきされちゃぁ誰でも怒って当然だと思うけど?」
見上げればでかでかと書かれた血濡れのスマイルマーク。
誰の血なのかは分からないが、明らかに誰かを殺して描いたんだと思われるほどの血の量。
『ベニーちゃん、』
「………何だ」
『……次は誰の血だろうねぇ』
「!!!!」
チャラけた声で話していたはずのパジャッソは含みを込めた声で言う。
受話器を持つ手の力がこもった。
『便利屋は居心地がいいらしいけどなぁ、』
「…ッ、お前…ッ」
『…フフッ、アハハハハハッ!』
「またあいつらに何かしでかす気か!!」
笑い出した奴に苛立ちを隠せずに声を荒げる。
『そうだなぁ、ベニーちゃん次第だけど、』
「…んだと?」
『とりあえず『そこ』から離れることをお勧めするぜぇ』
「…なん、で…ッ!!」
『 Boom!! 』
「わ、凄い!どうしたのこれ?」
「客がくれたの。おそーざい」
出て行ったときとは違う髪型で帰ってきたウォリックは沢山の惣菜を持ち帰った。
それは高級レストラン経営者の奥さんがウォリックのことを買い、帰りに持たせたからだった。
「ホント助かるんだわこういうの。俺そんな料理すげー得意って訳でもねぇし」
「…今まで二人交代で作ってたの?」
「んーん。俺ちゃんが飯担当」
「え?じゃぁニコラスとベネットは?」
アレックスが聞けばウォリックは苦笑いを返す。
「ベネットはちっせえ頃しか一緒に居なかったからなぁ今はわかんねーけど、」
と煙草を吹かしたまま窓の外を見て口を濁らせる。
ニコラスについてはそれはもうべらべらと料理が出来ないことを話した。
「んで…そのニックとベネットは?出かけちった?」
「あ…えっとニコラスは階下に下りったきりで、」
「あー筋トレしてんな。やる事無ぇとすーぐ籠もっから。で、ベネットは?」
「電話があって、出かけた…」
「……んじゃッ、俺ちゃんは昼飯にしよっかなーん」
ベネットの事を聞くと苦笑いをして、納得したかのように話を終わらせる。
身体をのばしながらアレックスにも共に昼食を摂るか聞けば、灰皿を事務机の引き出しから取出して煙草を潰す。
「ニコラスには声かけなくていいの?そういえば食事時に顔見た事あんまりないけど、」
「俺ら外食する時以外は時間バラバラだかんね。ガキん頃からの付き合いだけど一緒に食ってたのはほんの2・3年と…」
「…?」
言葉を途中で止まらせたウォリックの背中は少し哀愁が漂う。
料理を作るために階下に下りようとすれば、アレックスは急いで立ち上がる。
「ウォ、ウォリック!」
「なあに?」
「あの、あのね…お昼…私が作っちゃ駄目?」
RRRRRRRRR!
「おい!きみ!大丈夫か!!」
「……っ、ぅ」
「医者と警察が今くるからな!」
頭が痛い、腕も足も、背中が痛い。
声を掛けてくれている人の顔が霞んで見えていて、誰なのか分からない。
額から流れ出た血が地面を汚し、ふらつく足で立ち上がった。
「お、おい!動いたら駄目だ!その血の量は!」
「…うるせぇ、響く」
パジャッソと電話をしていれば目に入ったプレゼント箱。
急いで事務所を出ようとしたけれど間に合わずに爆発。
1部屋吹き飛ばすほどの威力だったが、逃げ遅れたためにもろに爆風を受けた。
「(これは脅し…俺を殺す気ならもっと威力があるはず)」
流れる血を袖で拭いながら7番街のテオ先生の元へ足を向ける。
爆発音を聞きつけた野次馬達はそんなベネットが歩く道を避ける様に開けてヒソヒソと話す。
心配する声と、気味悪がる声、それは様々だったが後ろから聞こえたのは子供がベネットを引き留める声だった。
「…何か用?」
「こ、これをお兄さんに渡せって…」
「手紙…?!」
5歳ほどの少年は少し曲がっている手紙を差し出して逃げて行った。
差出人もなく、ただ、見覚えのある封蝋で察する。
勢いで封を開けて中身を読む。
「朝からやってくれるな…糞野郎」
(どうか 彼らと居させてください)
1番星に祈求する
"7days later, I go to it to meet you."
← /
戻