「それじゃあ、これが携帯とかいうもので、お前は異世界から来たつーことだなァ」
「…信じていただけるんですか…?」


白ひげだと紹介を受けた親父の前でマルコに話したことをまた話す。
マルコも親父も、まさかこの話を信じてくれるだなんて思わなかった。
親父の部屋には僕を連れてきてくれたマルコと親父だけ。
不安に震える手と共に、親父の笑い声によって空気が震える。


「グラララ!このグランドラインだ、何が起こっても不思議じゃねェ」
「…グラン、ド?」
「どうだ、行く宛てが無いなら俺の娘にならねぇか」


この船の乗組員は全員家族らしい。
ざっと1600人はいる大家族。
その親が、自分の娘にならないかと僕に言う。


「こ、この船に居てもいいんですか?」
「なんだァ?ここに居たくねぇのか」
「でも、どこから来たかも分からない人間ですよ?」
「ここに居る奴らの大半はそういう奴らだから関係ねェな」


海のことも、漁師の仕事も、この世界のことも何にも知らないんだよ。
普通の生活しかしたことない子供だよ?
何にも出来ないのに、


「めい…わく、じゃない?」
「娘が一人増えたぐれェで迷惑なんてかからねェさ」


ボロボロと零れる水を止める術が分からなく、地面にシミを作る。
マルコはさっきみたいに焦ることなくクツクツと笑って、親父は大きな声を出して笑った。


「ハルカ、家族に遠慮はいらねェ。なぁマルコ」
「あぁ、少しは遠慮して欲しいぐらいだよい」
「だからなぁハルカ、こっちへ来い」


優しい声で手招きされると、溢れる涙を腕で拭いながらペタペタと近寄る。
首がもげるんじゃないかと思うくらい上を向くと、親父の笑顔が見えた。
思いっ切り泣けばいいと、大きな手のひらが僕の頭を押し潰すかのように撫でた。


「お、父さんに、なってくれる…っですか?」
「!!あぁ、お前の親父になってやる」
「僕、娘になれ…ないけどいい、ですか?」
「?!」
「あぁ、親父、こいつ男なんだよい」
「…グラララ!可愛い子供には変わりはねぇ!」
「じゃ、あ、僕、息子に…なる!」


そういって僕は目の前にある大きな膝に抱きついた。
親父の手が僕の体を包んだ。
娘になれないって言う言葉に一瞬親父の空気が変わった気もしたけど、それでもいいと言ってくれたことが嬉しい。
(この人が、僕のお父さん…)


「マルコ!今日は宴だ!」
「了解だよい。ハルカ、着替え用意するからついて来い」
「ぐずっ…は、い!」


やっと止まりつつある涙をもう一度腕で拭い、マルコの後をついていく。
マルコの部屋に向かっているようだが、その間いろんな人とすれ違う。
あれ、この船って大型漁船か何かじゃないの?
何日も漁に出るから医務室とかあるとかじゃなくて?
すれ違う人みんながみんな、何かしら武器とか持ってるし。
キョロキョロしながらマルコに付いていくと、マルコの部屋に着いたらしく、扉を開けた。
マルコの部屋はシンプルにまとめられていて、机には沢山の書類と、作業するときにかける眼鏡が置いてあった。


「さっきから何をキョロキョロしてるんだぃ」
「え、あ、ここって何をしてる船なんですか?」
「………」
「え?」


その沈黙は見たらわかるだろって意味だろうか。
それとも聞いたらいけないような事だった?
黙って僕を見るマルコを見る。


「…海賊船だよい」
「か、いぞく…」
「降りたくなくなったかよい」
「……ううん。みんな家族だっていう船長の船ですもん。優しい海賊さんなんですよね?」


それに、海賊って映画でしか見たことなかったから楽しい。
海賊って悪い人もいるだろうけど、この船の人達は違う気がする。


「まぁ家族には優しいだろうねい」
「マルコさんは特に優しそうですけど」
「…はぁ、もう何でもいいよい。これ、着とけ」
「…ちょっと大きいみたいです」
「………」
「あ、で、でも汗でベタベタだったのでこれで十分です…」


着ていたTシャツを脱いで受け取った白いシャツに袖を通す。
自分より顔2個分くらい大きいマルコの服はやはり大きくて、ワンピース状態になる。
慌ててフォローすると、マルコは僕の脱いだ服を掴んで部屋を出ようとする。


「夜までまだ時間あるからここにいろよい。また呼びに来る」
「は、はい。マ、マルコさん!」
「何だよい」
「ありがとうございます」
「…マルコでいいよい。あと敬語もいらねぇ」
「あ、ありがとう……マ、マルコ」
「…よい」



(…はぁ、本気でどうかしちまったかねぃ)






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