マルコが僕の服を持って部屋を出ていくと、その空間は広く感じた。
よく見ればマルコの部屋には本が沢山あって、1冊手に取ってみる。


「…読めない…」


言葉は通じているのに、文字は英語ではなくて読むことができなかった。
まぁ英語もしっかり読めた試しがないけど。
本当にここは元いた世界と違う世界なのだと、改めて痛感する。
仕方なくベッドに座ってみて、マルコが出て行った扉を見つめる。


「…お父さん…か」


元居た世界の父親の記憶なんて無いに等しかった。
小さい頃に母親から死んだと聞かされていたし、その母親も小学4年の時に事故で死んだ。
親戚と疎遠に近かった両親と僕自身の問題で、いろんな家をたらい回しにされたっけ。
そんなのも面倒だったから高校に入ると同時に一人暮らしを始めて、なんとなく生きてきた。


「戻りたいなんて、別に思わない…」


それでも学校には友達が居て、バイト先には仲良くしてくれる同僚や、親のように世話を焼いてくれる店長も居た。
別れも告げず、この世界に来て。
あ、窓開けっ放しだし食パンがまだ2枚あったのに…
きっとすぐカビだらけになるんだろうなー


「スマホも圏外…」


充電器もコンセントもないからこの便利な機械もここではただのガラクタ。
ボスンと体を倒してスマホをいじる。
マップのアプリもGPSがないから使えないし、ファストフードのアプリも店がなければ意味がない。
唯一使えるのはカメラのアプリぐらいか。


「…電源切っとこ」


向こうの世界の大切な記憶という写真が入っている。
電池が切れたら見ることも出来ないし。
真っ暗になった画面に自分が写った。
女の子と間違われるこの顔は、こっちの世界でも同じで。
娘になれと間違えた新しいお父さんを思い出して笑う。


「マルコ…も最初間違えてたみたいだし、みんなも女の子って思ってるのかな」


まぁ後で言う機会があるだろうと、重たくなってきた瞼を閉じる。
することないし、また寝ててもいいよね。
(寝たら帰っちゃってたりしないかな…)





***



ハルカの服を洗濯場に持っていき、コック達に今日は宴をすることを伝え、いつも通りの業務に戻る。
俺の部屋で待っているハルカを頭の片隅で心配しつつ隊員に指示を出す。
(あの恰好で宴はやばいだろうか…)
寝汗でベタベタだろうと着替えをさせたが、ハルカには俺のシャツは大きすぎたようで。
元々履いていたショートパンツが少し見えるかどうかという際どいものになってしまった。
(…襲われないよう見張るかねぃ)
宴の時間までもう少しという時、他の隊長格を親父の部屋に集め、ハルカについてある程度の話をする。


「…異世界の人間ってことかよ」


ワノ国の服を着た16番隊隊長のイゾウが煙管を口から離して驚きの表情で言った。
他の隊長らも驚きが隠せずにいた。


「だが、帰る方法が無い訳では無いのであろう?」


5番隊隊長のビスタが俺に視線を向けて問いかけた。
この偉大なるグランドラインだ。
異世界からの住人がいるという話は聞かないが、信憑性はないがそれに似た類の話を耳にしたことは何度かある。
戻ることができるのかは定かではないが、戻りたいというのであれば方法を探す術はある。


「もう家族なんだ、勝手に消えることだけは許さねぇよい」
「…そうだな!可愛い末っ子が出来たんだ!こんな辛気くせぇことしてねぇで歓迎してやろうぜ!」
「バカサッチもなかなかな事いうね」
「おいハルタ!誰がバカだ!」
「アンタ以外に誰がいるのさ」


12番隊隊長のハルタとサッチがいつものようにじゃれ合い始めたが、そんなものは無視する。


「さぁ、そろそろ時間じゃないか?」
「うまそーな匂いがプンプンしてるしなぁ!」


3番隊隊長のジョズが口を開けば、7番隊隊長のラクヨウが笑いながら立ち上がる。
ならそろそろ呼びに行くかと腰を上げ、親父にハルカを迎えに行くことを伝え部屋を出る。


「なんだい、マルコは随分と世話焼いてるんだな」
「…あのマルコがなぁ」
「どんなガキだ、あのマルコを使うガキは」
「サッチと親父は見たんでしょ?」
「めちゃくちゃ可愛い!目がくりくりでよぉ!」
「グラララ!あいつは可愛いぞ。おめぇらも可愛がってやれ」



(たった半日で船長と隊長2人を…)
(どんな大物だよ)







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