■■ ■本気(リリリド)
※〜を認め合うだけの関係=偶然二人きりになったら、その時だけぼそぼそっとお互いの心情を吐露するだけのことです。それ以上はありません。
今日は、洗濯当番の日だった。
洗濯籠に山のように入れられたシーツを両脇に抱えて、甲板に出て一枚ずつ干していく。
「本気でもない癖に、好きだぞなんて言わないでほしいですよね」
決して"一番"にはしてくれない癖に
そう呟く彼女の顔は、強い風に煽られる白いシーツに隠れて見えない。
互いに叶わぬ恋をしていると、気付いたのはいつだっただろうか。
彼女は血の繋がった実の兄に。自分は同性に。どちらも許されざる恋情だ。勿論、気持ちを伝えたりなんて愚かなことはしていない。
だから、その相手に嫌われていないことは知っている。寧ろ好かれていると言っても過言ではない。だが
「こっちはその人じゃなきゃ駄目なのに、向こうは全然そうじゃないんですよね」
笑顔を向けられることが、逆に辛い。そうやって微笑んで好意を見せてくれる癖に、彼の心を一番に燃やすのは自分ではない別の者なのだ。
その気持ちは、痛いほどわかる。
わかりすぎて苦しいから、互いの悩みを直接吐き出すでもなく愚痴り合うでもないしかしほんの少しだけ己の中に秘めた感情を認め合うだけのこの関係が、苦しいのに止められなかった。
「あっ、ごめんなさい」
突然謝ってきた彼女と、今日初めて視線が合った。
きっと、何故謝るのかという表情をしていたのだろう。彼女はすぐ答えてくれた。
「だってリッドさんのこと泣かせちゃった」
「・・・泣いてねぇよ」
顔の表面は乾いている。それだけは確かだ。
但し声が大分素っ気無いものになってしまったのは我ながらいただけない。
「いいえ泣いてます。此処が」
リリスはリッドの胸を指す。貴方の心が泣いていると。
やはり抵抗は無意味だったか。敗因は間違いなく声色に出てしまったことだ。
似たような気持ちを抱えていても、オレは彼女ほど強くはなれないらしい。
「・・・私たち、慰め合える程度の『好き』だったら良かったですよね」
「・・・ああ、そうだな」
その程度の気持ちならきっと捨てられただろう。諦められただろう。こんなに苦しむ必要はなかっただろう。
そうして例えば、そう今隣に立ち合う二人で新しい道を歩んでいくことすら出来ただろう。
「でも、仕方ないですよね」
だって私達は『本気』なのだから
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