■27年後にまた次の約束をしよう(ウスリド)

一世一代の大告白だった。きっとこんなことはもう二度と出来ない。
好き、だから付き合ってほしい。
そんな簡単なことを述べるだけなのに、頭も舌も回らない。
心臓がきちんと動き過ぎていることだけは、バクバクと煩い胸の左側で嫌と云うほどわかるけど。
顔が熱い。どんな色をしているのか、改めて鏡を見る必要は無いだろう。
浮かべている表情の情けなさにも自信がある。ああ、格好悪い。
でもそんなことに気を配る余裕すらなくて、兎に角今はこのバンエルティア号の通路に立つ、俺の目の前に居る相手の反応だ。動いたその口が一体どんな言葉を紡ぐのか、それが問題だ。

「いいぜ」

三文字。三文字の文字列の並びだ。しかしそのたった三文字の意味を解することが出来ない。
ええいこのポンコツな思考回路め。手っ取り早く廊下の壁に頭を打ち付けてやろうか。
そうすれば、これが夢か現か知れるだろう。自分にとって都合のいい幻想を抱いているだけなのかはっきるするだろう。

「その代わり」
「え」

ちょっと待って。まだこれが現実かどうか確かめてない。
リッドに告白して、OKを貰ったってその事実にまだ脳がついていかないのに、交換条件がアルンデスカ。ナンデスカ。

「一日一回、好きって言って、一万回言ってくれなきゃ別れる」

今のこの沸騰した頭じゃ三文字の言葉だって簡単に呑み込めないのに、これまた難解なことを言ってくれるものだ。
そもそも考えてもみてほしい。自分がこのたった一回の告白をするのに、一体どれだけの勇気を掻き集めて、度胸と呼ばれるものを使い果たしたかおわかり頂けているのだろうか。
それを一日一回更に一万回・・・だと・・・?この潰れかけのトマト・・・いや火山の燃える溶岩にも負けず劣らずな赤い顔が目に入らぬか。
俺がロニやゼロスみたいな(そりゃ本命の人に言う時は真剣になるのかもしれないけど)ひょいひょい愛の告白を囁けるタイプじゃないことくらいリッドだって知ってるだろう。

しかしその条件をNOと言う訳にはいかない。言ってなるものか。
奇跡的な確率で成就したこの恋を手放してなるものか。

「じゃあ、さっそく」

どうぞ、ほらと促される。
くっ。今日の分の告白ならさっきしただろ!と言いたいが、初回分はカウントには入れてもらえないらしい。

「お、俺・・・えと・・・だからその、す・・・」

きっと二度と経験することはあるまいと思っていた顔の熱や煩い鼓動の音が、鎮まりつつあったそれらが再び湧き上がり、思考を奪っていく。
一世一代の大告白(数分ぶり二度目)に俺が目を回していると、耐え切れないとでも言う様に、目の前の相手から笑い声が噴き出した。
左手で口元を押さえて、右手で腹を抱えて、それでも大笑いは我慢しようと小刻みに震える肩

「わわわ笑うなよ!」

よくも人の純情を!笑いを噛み殺しているのは俺への配慮のつもりなのかもしれないが、目尻に涙が溜まるほどじゃ台無しだ!!

「あはははは!!!」

とうとう声を上げて笑いやがった。そんな笑顔にすら心動かされるのだから己が憎らしい。
しかも逃げた。くるっと綺麗にターンを決めて、そのまま走り去っていきやがる。
更に最期の言葉が「ま、そんな頑張らなくていいからよ〜」だった気がする。なんだと。舐めているのか。

(くっそ〜!!!)

絶対、本気にさせてやる。「好き」くらい余裕で言えるようになってやる。
交渉は成立したんだ。恋人の地位は手に入れた。今更破談にはさせてやらない。
一日一回どころじゃない、一万回なんてもんじゃない、毎日飽きるくらい、そっちが恥ずかしさで死ぬくらい、「愛してる」って言ってやる!!!

ありったけの決意を込めて、胸の内でカイウスは叫んだ。
声に出した訳でもないのに息切れがして、両手を強く握り込む。
ふぅと一つ息を吐いて荒ぶった精神を落ち着かせ、額の汗を拳で拭った時、ふと一日一回一万回の告白つまり一万日のことが頭を過ぎった。

(10000日って、何年なんだ?)

オーバーヒートを超えて少し冷静になった頭で考えると、リッドが提示してきた条件の意味がなんとなく理解出来て、カイウスはもうとっくに見えなくなったリッドの背中をダッシュで追いかけた。



27年後にまた次の約束をしよう



頑張らなくていいんだ。一日に一回言うのがやっとくらいでいい。
宛もなく艦内を走り続ける。どこかいい隠れ場所はないだろうか。カイウスも冷静になればきっと自分の言葉の意味に気付く。オレがそんなに上手く言える性質でないことくらいカイウスだって知っているだろう。
取り敢えず今は背後に彼が居る筈もないことは足音や気配からわかるのだけれど、それでも後ろを振り返ることなど、到底出来そうになかった。
そんなことをしたら頑張って保ったポーカーフェイスが、とっくに崩れていることがバレてしまう。
顔が熱い。どんな色をしているのか改めて鏡を見る必要は無いだろう。


(だから。ずっと一緒に居ようよ。)




一万年と二千年前と八千年過ぎた頃からもっとそして一億と二千年後も愛してるうううううううううううううううう
10000日が思ったより短くて焦ったのは内緒。(尚永遠くらいのつもりで居た模様)(そりゃ10000年だ)

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