■大きな掌(フォグリ)
レイスを埋葬するリッドの話。



ざくざくとただ無心に、土を掘り起こしていく。
機械的に腕を動かしている筈なのに、しかし一向に作業ははかどらなかった。
まるでこの穴を掘り終えてしまうのを怖がって、終わってしまった命と向き合うことを、その終わりすら終わらせてしまうことを、この手が拒んでいるかのようで
そんな思考が巡る隙を自らに与えてしまうのが嫌で、リッドはシャベルを力任せに動かした。

「いてっ・・・」

シャベルの柄を握る手は次第に痺れつつあった上に、乱暴に動かしていたそれが土の中の大きめの石に勢い良く当たり、その反動でリッドは思わずシャベルを放り出した。
鈍い痛みに顔をしかめながら、そのまま脱力して地面に座り込む。
溜息を吐き、立てた膝の上に腕を置いてそこに顔を埋めながら、視界を少しだけ持ち上げて眼前の、中途半端に開いた穴を見つめる。
穴を意識すれば自ずと思考に入り込んでくる視界の外に「置いた」ままの「もの」の存在をリッドが首を振って脳裏から追い出そうとした時、リッドの剥き出しの、土で汚れた肩がやや強く後ろから掴まれた。

「手伝うぜ」

リッドが振り返ると、共に敵陣に赴いてきた革命軍のリーダーであるフォッグが、そう言ってリッドの肩に乗せた方と反対の手に握ったシャベルを軽く掲げて見せた。
打倒バリルを誓い同盟を結んだこの男がいつも浮かべている豪快な笑みは今は影を潜めている。
フォッグのそんな至極真面目な表情が、現状の異質さを際立てているようで、そんな現実を直視したくなくてリッドは目を逸らす。

正直に言って今のリッドには、フォッグの申し出を断る理由を考える余裕も、同時に申し出に感謝する余裕も持ち合わせていなかった。
だから短く、ああ、とだけ答え、片膝に手をついて立ち上がると、先程放り出したシャベルを拾い、再び土を掘り起こし始めた。

碌に言葉交わすこともなく----それは恐らくこちらの醸し出す話しかけてくれるなという空気を察してくれてのことだろうが----黙々と作業を進め、漸く人一人分の"遺体"を葬れるだけの穴が完成した。
フォッグが亡骸を、そう、リッドたちを庇い、守り、救って代わりに死んでいった彼だった「もの」を穴の中に横たえてくれるのを、何処か遠い世界の出来事であるかのように、ぼんやりとリッドは眺めていた。

「土、被せるぞ」
「ああ」

フォッグの呼び掛けにそう答えたものの、リッドは立ち尽くしたまま動こうとしなかった。
そんなリッドの様子に、フォッグは手に取ったシャベルをもう一度地面に置き、今度はリッドの両肩を掴んでゆっくりとこちらに向き直らせた。

「俺様は、こいつのことはよく知らねぇ」
「・・・そんなの、オレだって」

一体、何を知っていたと言うのだろうか
本当の彼の姿も、気持ちも、何一つだって知らない。何も知らないまま、全てが終わってしまった。
終わらせてしまったのだ。この手に残るのは託された鍵の重さだけだ。

「だけどよ」

フォッグは低く短く言葉を切ると、右手でぐっとリッドの心の臓を圧した。

「お前のここはアレだ。今、痛ぇんだろ?なら自分に嘘なんか吐くんじゃねぇ」

もっと自分を大事にしろと、ぐしゃぐしゃとリッドの髪を掻き回して、時に粗暴さすら感じるほど力強く頭を撫でる大きな掌に、リッドは息を呑んで、次いで唇を噛み締めた。

まるで、父さんの手みたいだ。
大きくて、温かくて、強くて、優しくて
きっと自分を支えてくれるだろう守ってくれるだろうと思い、そして事実、自分を支えてくれ守ってくれた手。大好きな、大好きだった掌。

努めて波風を立てないようにしていた心に、感情のさざ波がうねりを大きくしていく。
一度引き金を引かれた情動は、奥底に仕舞い込もうとした「レイスの死」をいとも容易く呼び覚ました。
堰を切ったように次から次へと溢れ出していく哀しみが、リッドの歪んだ表情に涙となって流れていった。
漏れる嗚咽も震える肩も何一つ咎めることなく、フォッグは自分の服にしがみ付くようにして辛うじて立っている少年にその胸を貸し続けた。


大きな掌
(受け止めるのは)






なんか書けそうな気がしたので急遽書いてみた。これでスランプ抜けられるといいなぁ・・・
んが、投稿したやつとなんか被ってる・・・w我ながら引き出しが狭い(汗)
リッドを少年とするか青年とするか迷ったけど今回は敢えて少年で

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