■■ ■当然(ジュディリ)
「貴方、仲間を信用してないの?」
バンエルティア号の通路でジュディスとすれ違った。
同じギルドのメンバー同士、無視する謂れも無いと軽く挨拶をし、しかし特に用事がある訳でもなかったのでリッドはそのまま彼女の横を通り過ぎようとしたが、そんな彼の背中にジュディスは今の言葉を投げ掛けてきたのである。
「はぁ?なんだよいきなり・・・」
「だって貴方、自分が苦しんでても傷付いてても、それを周囲に黙ってるんですもの」
振り返ったリッドはジュディスの指摘に言葉を詰まらせた。
動揺こそ表立たせていないものの、リッドの心臓はドクドクと脈を打ち、水面下の平静は既に保たれていなかった。
「・・・」
「ずっと弱さを知らせないで生きてきたのは凄いと思うわ。でも、それは本当の強さではない」
遠慮のないジュディスの物言い、その眼差しから逃れるようにリッドは俯き、顔に掛かった前髪が彼の表情を隠す。
暫くの沈黙。
「・・・なんで、ジュディスはオレのこと、わかったっていうか、そんな風に思ったんだ?」
「だって私、貴方を好いているんだもの」
その後(のち)、リッドは微かに唇を動かして小さく呟いた。
が、突然思ってもみなかった方向から好意を示され、驚きで弾かれたように顔を上げてしまった。
逸らしていた視線がかち合う。
リッドは思考が追いつかず目をしばたたかせていたが、ジュディスは対照的に、いつものどこか余裕のある笑みを口元に湛えていた。
「貴方の容姿、嗜好、価値観、行動その他を好ましく思っているわ。
好きな相手の幸福を望むのは当然でしょう?そうやって相手の幸せを願いながら、相手を思いやってその人のことを見ていれば、何かを抱えていることくらいすぐにわかるわ」
あまりにも大胆でストレートな発言にリッドは頬を赤く染め、それが自分でも分かって余計に恥ずかしくなり、口元を手で覆う。
「・・・そんなすげーこと言われたの初めてだ」
「ふふっ、いい女でしょう?どうかしら、そんなに悪い物件ではないと思うのだけれど」
「ははっ」
どこまでも本心を掴ませない飄々とした言い方に、リッドは思わず笑ってしまった。
当 然。
「あら、本気にしてくれてかまわないのに、つれないわね」
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