■もの憂い雨桜(レイリド)
CP略称被りすぎワロタ


薄暗い空からしとしとと雨粒が落ちる。
不思議な静寂の中、リッドは差し出されたお猪口に徳利を傾けた。透明な液体が小さな杯を満たしていく。

「いやぁ小雨模様の中で見る桜ってのも乙なもんね、ととっ」
「なんでオレがこんなこと・・・」
「だってファラちゃん雨が降り出した途端やれ村の作物が干し草がって飛んで帰っちゃったじゃない」
「いや、そっちじゃなくて」

何故自分がレイヴンに花見酒を御酌してやらなければならないのか、という方だ。
ファラに誘われ、もとい半ば無理矢理引っ張られる形でレイヴンと共に花見に来たのはいいが、いざ到着した途端運悪く雨が降り出し、レイヴンが述べた通りの理由でファラは村へ戻ってしまった。
追いかけようとする前にその背は見えなくなり、そうこうしている内にこちらは雨で足止めを喰らった。
漸く小雨になってきたが、雨宿りを兼ねて桜の樹の下に居る間、他に人が居ないことを理由にレイヴンが持参した花見用の酒をリッドが注がされている。

「ん〜滴に濡れる白い花弁を見ながらきゅっと一杯!いいわ〜これで番傘持った着物美人でも居ればますます風流ね。リッドくんの、とか」

伸びてきたレイヴンの手を叩き落として、ついでに徳利を押し付けて返す。
雫に髪を濡らしたリッドくんは桜と同じくらい色っぽくて風情があるとおっさん思うけどな〜と諦めて手酌に切り替えたレイヴンを横目に、リッドは溜息を吐いた。

「リッドくん、花見はお嫌い?」

ちびちびと酒をあおりながら、あまり楽しそうではないリッドの雰囲気を察して、レイヴンが茶化した雰囲気を少し潜ませて問いかける。

「嫌いじゃねぇけど・・・雨が降ったら散るのが早くなっちまうじゃねぇか」

雨粒の重みに耐えられず、はらり一枚、また一枚と桜の花が地面に落ちていく。
そして踏みつけられた花々を見やると、なんの為に咲いたんだろうと思う。
散るからこそ美しい、なんてわからない。
変わらないのが一番なのに。
そう言って視線を落とすリッドに、レイヴンは目を細めながらフッと口角を上げて、手ずから注いだ辛口の酒に口をつける。

「桜はおっさんたちヒトが散る様を見て儚いと思うほど、自分たちのことを儚んじゃいないのかもね」

何の為にか、なんてわかんないのは一緒でしょ。俺も、おたくも、そしてこの桜も。
レイヴンの言葉に引き寄せられるように、リッドは視線を上げる。

「ただ、そん時そん時を生きたいと思ったから生きる、一生懸命生きてる。そんな感じじゃない?」
「それなら・・・ちょっとわかるかもしんねぇ」

人の身にて人ならざるもの
人にあらずとも望んだ生を

自分の手を見つめながら感傷的な笑みを浮かべるリッドの肩をポンポンと叩いてやる。
悩め若人。苦しい時は相談に乗ろう、辛い時は支えてやろう。御前さんは独りじゃない。おたくよりちーとばかし長生きな自分も不肖ながら力を貸すから、だから安心して悩んでいい。
レイヴンは空気を変えるように徳利を掲げた。

「よっしじゃ、ま楽しくお花見再開といきますか。リッドくんも一杯どう?」
「オレまだ飲めねぇって。分かって言ってるだろ」

ははと軽く笑いながら、レイヴンは立ち上がる。

「ならあっちの露店でも覗いてみるかねー。この雨でもまだやってるみたいだし?おっさん奢っちゃうよー」
「マジで!?」

追加の酒やつまみを求めたレイヴンの「奢り」という単語に釣られて、「あ、なんか腹減ってきたかも」といつもの調子を取り戻しだしたリッドも立ち上がった。
雲の切れ間から差し込んだ光が、雨に濡れたリッドの笑顔をキラキラと輝かせ始める。
うん、アンニュイなリッドくんも悪くはないけど、やっぱそっちの方が素敵さね。



人の身にて〜=レイヴンの心臓、人にあらず〜=リッドのエッグベア 的なニュアンスで
レイヴンの対リッド二人称は凄く迷ったけど、青年呼びも少年呼びもしっくりこなくて血迷ってリッドちゃんにしてやろうかと思った所ででもやっぱ当初の予定通りくん呼びにしました

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