■君だけのサンタクロース(主人公17歳組×リッド)
コンセプトはリッドwith17歳主人公




「おーい、リーッドー・・・」

リッドは何度も繰り返される呼び声に起こされた。

半開きの視界に映るのは教科書とノートが散乱する狭い勉強机
残念ながら参考書の問題はちっとも進んでないし、どこから意識が飛んだのかも全く記憶に御座いません。
あーあやっちまった、という微妙な落胆を抱えながら、ふあああと大きな欠伸を一つ。

「リィーッドォー・・・」

椅子に座ったまま机に突っ伏して寝たために凝り固まった身体をほぐしていると、再び自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
声は外からだ。一体誰だ?こんな夜中に近所迷惑な・・・
仕方なしに立ち上がり、寒さに身を縮こめながら窓へ向かう。
雪も振り出しそうなクリスマスの夜。しかし年明けに戦いを控える受験生には、哀しいかな関わり合いの持てぬ行事だ。
それでも、身寄りのない自分にここまで援助してくれた人に大学進学を薦められては、無下にも出来まい。だからなんとか頑張らないと・・・
まだどこか寝ぼけた心地の頭でそんなことを考えながら、ガラガラと軽い音を立てて窓を開ける。
アパートの前の道路を見渡すが、誰も居ない。気のせいか?とリッドは首を傾げた。

「こっちだよー」

言われるままに頭上を見上げたリッドは、ありえない光景に言葉を失った。

「「「「メリークリスマース!!!」」」」

朗らかな声に、まるで今からパーッとクリスマスパーティでも始めるかのようだ。クラッカーって鳴らした後の片付けがちょっと面倒だよな
思わず現実逃避したリッドだったが、オレは悪くねぇと後輩の口癖を心の中で呟く。
だって目の前にはトナカイに引かれたソリと、赤い服を着たサンタ。しかも4人。
こりゃ夢だ、そう思わない人間の方が少ないと思う。
この歳でサンタが実在すると信じてる訳がない(外国の職業的なそれは除く)というのもあるが、それだけではない。
どう見てもそのサンタ4人は、自分の高校の後輩たちだ。そうとしか見えない。さっき口癖を借りてしまったのもその所為だ。

「クレス?ロイド?セネル?ルーク?お前ら何やってんだ!?」

つかどうやってんだ、色んな意味で。この現状を夢だと思う一番の理由は、お前らが空に浮いてることなんだけど

「何言ってるのリッド、僕達はサンタだよ?」

人畜無害そうな笑顔を浮かべる後輩の一人、クレスの穏やかでいて有無を言わさない感じが、どこまで本気なのかを余計にわからなくさせる。

「あー、リッド寝てただろ?口の端によだれついてるぞー」

にししと笑いながらこちらを指差すロイドに、リッドはちょっと赤くなりながら口元を拭う。
なんだか恥ずかしさよりもいたたまれなさの方が大きい。
サンタの格好をして原理不明のソリで空を飛んでる後輩に指摘された、そんな特異な状況が原因だろう。

「それより本題に移るぞ」
「リッドが風邪引いたら大変だもんな」

妹が絡まなければ割りといつも冷静なセネルの言葉にルークが同意する。
さっきの口癖「俺は悪くねぇ」を使っていたのがルークなのだが、心境の変化あって髪を切ってからは傍若無人ぶりは大分鳴りを潜めたように思う。

「そうだね、雪も降り出してきたし」
「本題って?」
「勿論、リッドへのクリスマスプレゼントに決まってるだろ」
「サンタクロースのすることって、それしかないよな」

吐く息白く、だが突飛過ぎる展開に半ば寒さを忘れていたら、とうとう冬の曇り空から白い雪が舞い降りてきた。
なんだか自分一人色々と突っ込んだところで埒が明かない気がして、リッドは目の前の自称サンタクロースたちの話に乗っかる。これを人は諦めと言うかもしれない。

4人のサンタから渡されたプレゼント
クレスの包みには、学業成就で有名な神社のお守りが幾つも入っていた。

「わざわざ全部行ってきたのか?」
「修行がてらだから、気にしないで。でも合格祈願はしっかりしてきたからね」

笑顔であっさり返答してくる相変わらずの修行馬鹿・・・このお守りの神社とか滅茶苦茶遠い所にあった気がするが、どこまで走りこみをしてきたのかは聞かないでおこう。
次にロイドの包みを開ける。出てきたのは大量の鉛筆だ。

「マークシートっていえばやっぱ鉛筆が欠かせないよな!五角(ごうかく)形で目指せ合格!」
「このだるまは?」
「あ、俺が作った。鉛筆立てなんだぜ」

おそらく木彫り?鮮やかな赤で彩色も施されており、ちゃんと目も入れられる仕様になっている。手先が器用ってレベルを超越してる気がするのはオレだけだろうか
その次のセネルの包みからは、シンプルな目覚まし時計

「受験当日に寝坊したら話にならないからな」
「・・・わかった、オレも来年お前に贈ってやるよ」

確かにオレも寝坊して遅刻はしょっちゅうだけど、ねぼすけおにいちゃんとして有名なお前よりはマシの筈だ。
悪気があってのチョイスではないだろうが(つか本気で自分の寝起きの悪さに気付いてないし)セネルの言葉がお前が言うな状態過ぎて、どうしたものかとリッドは若干渋い顔をする。
最後の包みからは、最新型の電子辞書が出てきた。

「俺メーカーとかよくわかんないけど、一番新しくて高性能?なヤツにしといたから!前にリッド、電子辞書の調子が悪いって言ってただろ?」

確かに液晶の調子が悪くて急に画面が消えてしまうこともしばしばだったが、ちょっと愚痴っただけなのにそれを覚えているとは思わなかった。
そして流石ルーク・・・ポンとこんな高級なものをクリスマスプレゼントに選べるとは、家が金持ちなだけはある。

というか一応『サンタからのクリスマスプレゼント』の筈なのに、やけに現実的なものばかりだ。
だが

「クレス、ロイド、セネル、ルーク・・・みんな、ありがとな」

今の自分には全て有難い。勿論プレゼントそのものもだが、何より彼らの気持ちが嬉しかった。
きっとこれは夢だろうが(だってやっぱり状況が奇天烈すぎる)、だとしても彼らが自分を励まし、応援してくれたことに嬉しいと感じた自分の心は現実で、本物だ。

「こちらこそ、どういたしまして」
「リッド、頑張れよっ」
「だが無理はしないようにな」
「あ、長居してごめんな?俺たちこれで帰るから!」

これ以上オレの邪魔をしてはいけないと、4人の奇妙な後輩サンタたちは足早に雪空を駆けていった。
ソリは直ぐに闇夜に紛れて見えなくなって、しゃんしゃんと鈴の音だけが耳に残る。
今までで一番驚かされたクリスマスプレゼントだったけれど、出来ればこの夢を、起きても忘れたくないなと思った。





「ん・・・・・・」

ちゅんちゅんと元気な小鳥の声
窓から差し込む朝の太陽が、勉強机に置かれたスタンドライトの光を意味のないものにしている。
左腕に顔を押し付けて机に突っ伏し、右腕はだらんと垂れ下がったまま、握られていた筈のシャープペンシルは床に転がっている。
そんな自身の状態にあぁ寝ちまったのか・・・と現状を把握すると、リッドはのそりと身を起こす。
しょぼしょぼとする目元を指で擦りながら、かなり変で、でもちょっと面白い夢を見たなぁと思い出し笑いをして、伸びをして椅子から立ち上がった。

「え?」

スタンドライトをOFFにして顔を洗いに行こうとした時、ベッドの上に見覚えのある包みが4つ置かれているのが目に飛び込んできた。
一気に脳が覚醒したリッドはベッドに駆け寄ると、既に一度解かれた形跡のある包みの中を確認する。
中身はやはり、夢の中でサンタの格好をした後輩たちに貰った学業成就のお守りと、大量の五角形鉛筆(合格だるま型鉛筆立て付き)と、目覚まし時計と電子辞書
ならば昨夜のあれは夢ではなかったのか?いやしかしソリとサンタの格好はなんとかなるかもしれないが、トナカイも本物に見えたし・・・ルークの家の力(言ってしまえばマネーパワー)で用意したとか?
いやいやいや、なら空を飛んで行ったのはどう説明する。そんな技術が確立されたのならもっとニュースになってるだろうし、寝ぼけて見た夢と考えるのが妥当・・・しかしこのクリスマスプレゼントは確かにここにある。

(冬休みに入ってから、アイツらには会ってない筈なのに・・・)

リッドはベッドからジャンプで降りて机の上の携帯を引っ掴むと、朝っぱらであることも忘れて例の後輩4人に片っ端から電話を掛けていったが、こちらの言っていることを信じているのかいないのか、要領の得ない返事ばかりだった。
それを誤魔化していると受け取ることも出来なくはないが、そこまでする理由も分からない。ドッキリなら自分がこうしてリアクションをしてきた時点で、ネタばらしがある筈だ。
携帯の電源ボタンを押して通話を終了すると、結局なんだったんだ・・・とリッドは小さく息を吐いて肩を落とす。
なんだか脱力した気分でベッドの端に腰掛けて、そのまま後ろに体重を掛けて倒れこむと、スプリングの弾みに合わせてベッドの上の包みが音を立てる。
それを見つめて、リッドは「ま、いっか」とひとりごちた。

これが後輩たちが結託して仕掛けたドッキリだったとしても、クリスマスが起こした奇跡だとしても

『試験勉強、頑張ってると思うけど、風邪引かないように気をつけてね』
『気分転換したかったらいつでも誘ってくれよー、カラオケボーリングゲーセンどこでも付き合うぜ!』
『よかったら試験当日の弁当を用意したいと考えてるんだが、どうだろうか?俺が作れるのはサンドイッチやバケットを使ったメニュー限定だが・・・』
『どうしてもだったら俺の所から家庭教師派遣するぜ?別に金とかいらないからさ、それよりリッドに合格してほしいし』

電話口からそれぞれに贈られた、応援の言葉
夢の中で彼らから貰ったプレゼントや励ましは、所詮自分の願望に過ぎないかもしれなかったから、だから嬉しいと感じた自分の心の喜びだけは現にも持って帰ろう、そう思ったけど
今また現実で彼らの応援を受け取って、なんだかそれが嬉しくて

「さって、朝飯食って勉強再開するかなー」

高校生活も残り少ない。合格が決まったら、今度は自分が彼ら後輩を応援出来るように、頑張ろう。
さぁ、サクラサケ!


@最近文章ご無沙汰だったから苦戦した・・・gdgdですみませんorz

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