■究極の独占欲?2(クレリド)



「クレス!!」

スタンが名を叫ぶが、彼は答える事無く真っ直ぐリッドに向かっていった。
不意打ちの攻撃にリッドの表情が微かに変化したものの、クレスの渾身の一太刀は易々と受け止められてしまった。
刀身を弾き返されたクレスも怯まずに畳み掛け、二度三度と激しい打ち込みが続く。
クレスが剣を大きく横に振ってステップしてきたのに応じ、それを往なさんとリッドも剣を振り上げた。

「ぐはっ」

しかしその剣筋はフェイクだった。
リッドのみぞおちにクレスの膝蹴りがストレートに入り、鈍い音とリッドの呻き声が重なる。
反動でリッドが浮き上がった僅かな滞空時間を利用してクレスは身体を回転させ、そのままリッドの頭部に回し蹴りを喰らわせた。
ホールの壁に叩き付けられたリッドを素早く追尾し、床に転がった彼の身体に圧し掛かる。そして右手首を足で踏みつけ、喉元には剣を突き立てた。

「おいたがすぎるよ。さぁ、剣を離すんだ」

シン・・と静まり返ったホールに、パラパラと崩れる壁の欠片が落ちる音と、聞いた事もないようなクレスの低い声が響く。
荒く呼吸を繰り返すリッドの右手が、それでも尚抗おうと動いた。
クレスは目を細めると、リッドの右手首を一層強く踏みつける。
仰け反ったリッドの喉の奥からくぐもった声が搾り出され、そこまでしてやっと、彼の手からカランと音を立てて剣が転がり落ちた。
そして・・・

「ク・・クレ、ス?なに、が・・一体どうなっ・・て」

透き通った青の瞳に光が戻った。
どうやら剣を握っていた間の記憶は残っていないらしく、身体中の謎の痛みと、何故かクレスに圧し掛かられ剣を突きつけられているという絶対絶命な状況に、リッドはこれでもかと困惑を露にした。
涙目になって顔を歪めるリッドの様子に、クレスはにっこりと、いつもの笑顔を見せた。



一先ず一段落か、とその場に居た全員が肩の力を抜き、緊迫していたホール内の空気が元に戻り始める。
クレスは押し倒したリッドの上から退いて剣を収めると、リッドに手を差し伸べた。肩を貸し、彼が何とか立ち上がろうとするのを横から支える。

「有難う、クレス君。私たちじゃとても手を出せなかったから・・」

神妙な面持ちでアンジュはクレスに礼を述べ、そしてホールの床に放置されたままの例の剣に目をやった。
あの剣をどうするか・・当然の事ながら、迂闊に触ることは出来ない。

「そーんな時こそ、この『ゲッチュッチュ君2号』の出番でしょ?」
「「ハロルド!」」

一連の出来事を知ってか知らずか、お手製の開発品を手にハロルドがホールに現れた。
恐らくマジックハンドの類と思われるが、ファンシーなねずみとサルが持ち手のモチーフに用いられているにも関わらず、どこか拭えぬ怪しさがある。
ハロルドは鼻歌交じりにその道具を使い、直接手を触れずにひょいと剣を掴み上げた。

「渡してきた依頼人や受け取ったアンジュが無事だったんだから、このケースには封印に近い効力があるんでしょうねぇ〜♪」

面白い研究対象を見つけたと言わんばかりに、ハロルドはケースと剣をじろじろと観察する。
依頼人に話はつけるにしろ、場合によってはこちらで処分する必要があるかも、とケースの蓋を閉めながらハロルドが言い、ギルドマスターであるアンジュも頷いた。

「少し文献を漁ってみるわ、アンタも手伝ってくれる?」

すずが了承し、二人は研究室へ向かう。
治癒を行える者が怪我人の応急処置を、残りが医務室に連絡を入れて怪我人を搬送し、ホールや備品の修理は後日ということで一応の段取りをつけ、この場は解散となった。

リッドを医務室に連れようとするクレスの元にスタンが駆け寄り、リッドの身体を反対側から支える。
既にリッドは意識を失っており、事情を説明するのは彼が目を覚ましてからになるだろう。
医務室の面々にリッドを任せ、部屋を後にしたスタンはクレスを少しだけ咎めた。

「幾らリッドを止めるためでも、あれはちょっとやりすぎだったんじゃないか?」
「こっちも本気で、全力でいかなきゃ、止められる訳ないと思ったからね。それに・・」

---------あんな"モノ"にリッドを奪われるなんて、許せないじゃないか

そう事も無げに言うクレスの表情を見たスタンは、自身の顔が引きつっていることを自覚した。
笑顔ではある。ある、が・・・。
慌ててスタンは、辛うじて苦笑の体を取り繕う。しかしどこまで意味を成しているかは自分でも甚だ疑問だった。
呪いの剣が意識を奪っているとは言え、身体はリッドのものに変わりないのに、それでもあそこまで容赦なく打ちのめせてしまうのなら、迂闊にリッドに手を出した人間にはどれほどの仕打ちが待っているのか。

通路を先に往くクレスの背中にそれを想像したスタンはちょっとだけ身震いし、起こり得るのかすら知らぬ未来の、その人物に合掌した。

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