■架空1(キルリ)


僕は自分の貧弱な身体が大嫌いだった。
筋力も体力も何もかも先を行く幼馴染には敵わなくて、彼のようには走れなくて、足はもつれて地面に転ぶ。
いつも、その場にしゃがみこんで泣いてばかりだった。
そんな僕をからかってばかりだったアイツは、それでも最後には必ず僕に手を差し伸べてくれた。

それが、たまらなく惨めだった。見捨てられないことが、情けを掛けられているようで。



「はっ」

足を肩幅に開き、軽く膝を曲げて剣を構える。
突進してきたアーマードボアの蹄を刃で受け止め、弾いて軌道を逸らせば、着地した相手は勢いのままに反転し、再びこちらに向かってきた。
慌てず、標的との距離を冷静に測る。

(-------次で、仕留める!)

一瞬だけ瞳を閉じ、意識を研ぎ澄ませソードスキルの発動を念じれば、剣が青白い光を放ち始めた。
間近に迫ったアーマードボアの雄叫びに開眼すると、キールは一気に獲物に切り込んだ。
刃に抵抗する肉と骨の厚みが、キールの腕を軋ませる。だが、

("ここ"でなら・・・僕は、負けないっ!!)

システムの補助、その恩恵を受けてキールは腕を振り切った。
切り裂かれたアーマードボアは無数のホログラムに分かれ、消滅する。
ウィンドウにはエネミーモンスターの討伐完了を示す「Congratulations!」の文字と、それによって得た幾つかのドロップアイテムの情報が表示された。

ここは、ゲームの中の世界だ。
革新的な技術の進歩によって、パソコンのモニターの前で行われていたオンラインゲームは、そのヴァーチャルな世界に自らの意識を投じることが可能になった。
この世界で吹き荒ぶ風を、流れる川の水を、太陽の光やその熱を、現実のそれらと寸分違うことなく感知することが出来る。
一方で先の様な腕が故障してもおかしくない負荷も、ここでは関係ない。
ステータスを割り振れば実際の筋力が無くても重い武器を扱えるし、運動神経抜群のアスリート以上に高い身体能力を手に出来るのだ。

生まれ育った故郷を離れ、コンプレックスの反動から勉学に励み続けた僕が、大学進学の後に出会ったのがこのゲームだった。
違う自分になれる喜び、嘗て憧れた、肉体の自由。僕はゲームにのめり込んだ。
努力の積み重ねを厭う性格ではなかったのも幸いし、僕はかなりのハイペースでレベルを上昇させた。並みのプレイヤーでは僕には勝てない。そのくらい、僕は強くなった。
----------例えそれが、虚構の強さだったとしても

そんな折、僕は現実の世界であの幼馴染と再会した。
それは本当に偶然で、街中を歩いていたら道行く人とぶつかった、その程度の偶然で。
幼馴染はまだ故郷の村で暮らしているらしく、この街には用事で立ち寄っただけで、もう帰るところだった。
一歩違えば互いに気付くこともないまま、もしかしたらこのまま、一生会わないままだったかもしれない。予期せぬ再会に僕も驚いたが、向こうも驚いていた。
僕が村を離れたのはまだ幼い頃家族に連れられてだったし、一応引越し先を教えはした気がするが、通学の為に大学近くのこの街へ下宿しに来ていることまでは知らなくても無理はない。

近くのファーストフードの店に入り、少しの時間だったが、彼の帰りの新幹線の時間まで話をした。
幼馴染と過ごせば過ごすほど生まれ僕の中に蓄積されていった負の感情は、勉学への没頭と、10年もの長い歳月による時間の経過と、そしてあのゲームとの出会いによって大分と小さくなり、頭の隅に追いやられていたから、だから懐かしさも手伝って、互いの近況について話す内に、僕はこのゲームを幼馴染に薦めていた。

 それでも
 このゲームでなら・・・ずっと勝てなかった幼馴染に勝てるかもしれない
 無意識の内にそんな気持ちが紛れていなかったと言えば、それもまた、嘘になるのかもしれないが

彼はこの手のものには興味が薄いらしく、余り乗り気な様子ではなかった。しかし僕の熱弁と折角の再会の記念くらいにならと、前向きに検討してくれることになった。


そして僕達はこのオンラインゲームでの再会を約束し、再び遠い距離を別れた。

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