02

 チャイムが鳴って玄関を開けた先、立っていたのはなんだかラフというかスポーティな格好をしたコナン君だった。
 門前にはワゴンが停まっていて、門を開けたらしい阿笠博士がいる。ワゴンの中には窓に手をつきこちらに手を振ってくる子ども。

「昴さん、キャンプにいこう」

 なんと俺まで計算に入れて道具の準備と場所の予約をしたらしい。俺への予約は不要と判断されている。断ったところでさしたる用事もないという点においてはその通りだが。

「……きみと彼がいるということは、あの子も?」
「哀ちゃんのこと? もちろん」
「僕が行っては――」
「なんで?」

 どこか演技がかった様子で、しかし本気でわからないといった風にこてりと首を傾げられて若干動揺してしまう。いい年して察してちゃんするなとな。

「僕はあの子と一緒にいるべきじゃない」
「どうして?」
「……許されないことをあの子にした。あの子の方も僕が近寄るのを望まないでしょう」
「“昴さん”には別に、哀ちゃんに対して負い目に思うようなこと何もないでしょ? お料理サボってたのは謝らなきゃいけないかもね」
「しかし、あの子も――」
「哀ちゃんも来てって言ってたよ。それと、ちゃんと名前を呼んであげて。かわいそうじゃない」

 軽く呆れたような表情でコナン君が小さく笑う。どことなくいつもと違う笑みでもあり、まるでなんでもない、日常の些細な会話のひとつといった調子だ。

「ね、“昴さん”」
「……」

 言われてみれば、何をそんなに気にしていたんだっけか。変態疑惑?
 阿笠氏もいてこれだけ証人がいれば、相当アブないことをしない限りロリコンの謗りを受けることもあるまい。人数的にまさか同じテントで寝ることもないだろうし、いざとなれば外か車の方にいよう。
 遊び盛りの子どもを五人、しかも遠出で一泊、阿笠氏一人で見るのはきつかろう。世話になってるんだからたまには役に立たないとな。
 そのまま早く準備をしろとせっつかれ、一泊分の荷物を持ってワゴンに乗り込むことになった。昴さんは後部座席、と指をさし、コナン君は助手席のドアを開ける。

「昴さん、久しぶりー」
「よかった、来れたんですね」
「オメー、もう元気になったのか?」

 子どもたちは屈託なく笑って迎えてくれた。
 座るように示されたのはあの子の隣だ。なにやらカチューシャの子、歩美ちゃんがえらくプッシュしてきたのである。いきなりかと躊躇していたら、落ち着いた少女の声が、「早く座ったら」と言う。
 すごすご身をおさめた俺から、少女は気まずそうに視線を逸らす。
 ただでさえそこらの子どもより遥かに頭がよく精神的にも成熟した、自尊心の高い少女である。体調不良で緊迫した状況に置かれていたからとはいえ、喚いて大泣きしていたのをそこらのちんけな男に目撃されて恥ずかしいどころじゃないだろう。

「……ええと、風邪はもう大丈夫です? ……哀ちゃん」
「…………そうじゃなきゃ来てないわ」
「よかった」

 不快ではあるのかもしれないが、少女は名を呼ぶのを咎めはしなかった。さらには俺をちらりと見て、「あなたは?」と聞いてくる。オットナー。

「おかげさまで、ずいぶん」
「そう」

 返事はそっけないものの、安堵したようにわずかに頬を緩めてくれた。

「……あんまり飲みすぎないようにね」

 更には生活習慣の注意まで。先生にもほどほどにと言われていたことだし、大抵飲むにしても晩酌程度にちびちびなのだが、そんなに飲んだくれてそうに見えるのだろうか。もしかして普段のトンチンカンな発言は酒気帯びによるものと思われている? 残念素面なんだな。ともかく気をつけますと答えておいた。

 保護者というより完全に手足として呼ばれたようだ。キャンプ場にチェックインすると、少年少女はテキパキと動き、重い水や道具を運んだりといった彼らには物理的に難しい作業について俺に指示を飛ばしてきて、言うとおりにやっていればタープもテントもダイニングまわりもあっという間に設営できてしまった。一般的にはそこでまごつくケースが多いと聞くがまったくそんなことはない。さすがコナン君のお友達なだけある。
 炭火を起こしはじめ、食材の準備を俺と阿笠氏に任せると、子どもたちはボールを持って遊びに行ってしまった。

「手慣れたものですね」
「場所はまちまちじゃが、もう何べんもやっとるからのう」

 よく飽きないもんだ。そこまで付き合ってやる阿笠氏も大したもんである。
 ふいに、彼は思い出したように荷物置き場へ向かうと、片手に何かを持って戻ってきた。にんまりと笑い、口元に手を当て声を潜める。

「実はの、今日はこれを持ってきたんじゃ。程よく焼けると具材をひっくり返すマシンで――」

 阿笠氏もなかなかエンジョイしているようだ。
 ううん、どうもキリに見えるけども。


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