02

「狙いがわかっている分対策の練りようもあるじゃない。水無さんの居場所は移す予定なんでしょ?」

 にっこりと笑うコナン君にジェイムズが若干たじろぐ。

「あ、ああ……叶うかは分からんがね。ひとまず交渉してみるつもりではいる」
「それまでの間嗅ぎ付けさせなければ大丈夫だよ」
「でも、水無伶奈の居場所を探していれば、入退院の記録なんかを漁ろうとするでしょうし――必然的に無関係な患者の情報も彼の目に止まり、その手に渡ることになるわ」
「今の時点ではあの男にとって何の益にもならないものだ」
「万が一使われちゃうこともあるかもしれないから、とりあえず患者さんのプライバシーに関わるものは細工しておいたほうが良いかもね」

 腰を痛めた男や入院保険目当ての老人なんかの情報を得て何になるんだと思いもするが、馬鹿と鋏は使いようと言うし、何も今回の件だけに限らず他の仕事のネタにもされかねんからな。
 残念ながらジェバンニがいないので一晩でカルテ捏造するまでは無理だろうが、ネームプレートなんかを多少いじるくらいは出来るはずだ。仕様までガラッと替えれば怪しまれるため、ある程度は諦めるしかない。

「なにも一から十まで唯々諾々と黙認しろと言ってるんじゃない。ケイトに弁になってもらえばいい。あくまでいち患者として接し、楠田が不審な動きを見せれば、看護師としての常識の範囲内で咎めるように」
「それだけで引き下がるかしら」
「引き下がらなければそれこそ正規のスタッフに病院として問題にあげさせ、順当な手順を踏んで警察なりなんなり公的機関を使わせる」
「呼んだところでその場で暴れられては、結局のところ病院の被害になるんじゃないかね」
「そういう状況で強硬手段を取る可能性は低いよ。もし咎めるのがFBIの人なら、ここに水無さんがいることが確実になるから、あの人の仕事は半分成功になって、また別の話になっちゃうだろうけどね」

 ジョディとジェイムズが、渋い顔をしながらもそれもそうかとばかりに視線を交わす。
 やはりコナン君の言葉のほうが効いている。人徳の差が如実に見えるね。

「様子を見る、というよりは、泳がせる、って考え方だよ」

 そうしてコナン君は、まず楠田陸道が何をやっているのかを正確に把握するべきだと言う。
 それが分からなければ不測の事態が起きたときにどういう行動を取るか分からず、またそれによってどんな被害が出るかも、何を呼び込むかも分からんからと。
 攻略方法も知らないモンスターに無闇矢鱈つっこむのではなく、行動や攻撃のパターンを覚えてからその隙を突いて狩れとな。

「それに、そうすればボクたちがそれを代わることも出来るかもしれないよね?」
「つまり――彼を装って組織と連絡を取ると?」

 うん、と頷き、それからコナン君は、無邪気ともいえる可愛らしい笑顔を浮かべた。

「ボクがあの人の携帯を壊してくるよ」

 普通のお子さんがやればお説教アンド小遣い減額コース不可避だろうその発言に、ジェイムズが、なるほど、と得心したようにして顎を撫でる。

「取れる手段を狭めて秘匿を難くしようというわけか……」

 俺がそうだったように、スパイをするんだったら、成果についてもそうだし、自分が生きているか、つまりミスをしていないか、相手に気づかれていないかを母体に報せる必要がある。場合によっては指示を仰がなくてはならない。その頻度と手法を探ろうというわけだ。
 コナン君はしっかりばっちりいたずら小僧の前歴持ち、バレたところでそういうことをやりそうな子どもだとの認識が楠田にもある。見知らぬ外国人が破壊するよりはまだ些細なハプニングで済むだろう。
 ほどよく泳がせ手の内が知れたところで捕縛しすげ替える。わりとポピュラーな作戦でもある。
 さしあたりその方針で行こうとジェイムズが頷いた。水無伶奈の見張りに影響がない程度に、数人をローテーションで楠田陸道の監視につけるという。
 ジョディはそれを他の捜査官に伝達をしに、ジェイムズは水無伶奈の移送先を探しに行くと言い、その場は一旦解散となった。

 俺はもうすぐ見張りの交代がある。それまでちょっくら調べ物しながらタバコでも吸うかと、ジョディ達同様廊下へ足を踏み出したところで袖を引っ張られた。

「ちょっと話があるんだ、いい?」
「……ああ」

 出来れば誰にも話を聞かれない場所がいいとのことで、どっちにしろ病院内じゃおおっぴらに吸えないし丁度いいかと、駐車場に向かい、二人でシボレーに乗り込んだ。

「赤井さんは気づいたよね?」

 予想通り、話は狸寝入り姫のことらしい。
 まあそりゃ瞳孔見たからさすがにと頷けば、コナン君はしたり顔で更に続けた。

「――彼女の“正体”にも」

 ……正体? 実は十七分割されても死ななかったりするのか?


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