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 こんにちは我が家の天井、そしてものすこいデジャヴ。
 浮かび上がった白を一文字一文字読まなくともわかった。はいはい死んだ死んだ。あまりにも唐突すぎるだろ誰だこんなシナリオ組んだのは。
 状況的に、前回のような死因ではない。道の構造、特徴的な音、全身が弾き飛ばされるような衝撃。まさかのロードキル。
 そんなんあんな住宅街であると思うか。いやうーん、でも、傍から見たら私が勝手にホイホイ出てきて自ら飛び入った厄介な夏の虫だった。運転者側からしてみればたまたまアホな歩行者とかち合ってしまったばかりに今後の人生ハードモードにされてしまったようなものかも。楽しいゲームのウラには理不尽と悲劇が詰まっている。
 浮かび上がる水の玉は二個に増えていた。
 どうやらポイントごとに別にセーブされているらしい。今度も映り込んでいるのはバーボンさんだったが、もう一つとは違い、多少の不安は滲むものの、余裕がある表情だ。これまた見覚えがある。恐らくは今日の玄関でのものだろう。
 予想は当たりだ。触れて始まった場面は、ちょうどバーボンさんが靴を履いたところだった。

「いいですか、絶対にここの鍵は開けてはいけませんよ。僕が帰ってくるまで、触ったらだめ」
「ばーぼん、かえる」
「そう。じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい=v

 今度は一発でいってらっしゃい≠言え、前よりもスマートに送り出すことが出来た。うーん、私って知性と学習の生き物。
 それから、ちょっと悩んで靴箱を見てみたけれど、スニーカーや革靴やブーツとやっぱり明らかに合わなそうなものばかり並んでいたので、前回同様サンダルを履いて外に出た。
 しかし歩いても歩いても、前回少年たちと出会った空き地に辿り着けない。マップもないしちゃんと道を覚えていたというわけでもなかったにしろ、徒歩で行ける、現実では小一時間はかからないだろう距離にあったのだから、これだけ彷徨いていれば普通に一度や二度ぶつかりそうなものだけども。
 思ったよりも遥かに広くて複雑なのか、はたまたあそこは猫の泉的な場所だったのか。手洗い場はごくごく普通の作りだったしあの子たちの脇を拭ったわけでもないしどう考えても違うというツッコミは控えて。

 おそらくもうゲーム内では一時間をゆうに越えてしまっているだろう。なんだか心持ち日が傾いてきている気がする。ちょっぴりノスタルジーを感じる光加減だ。仕方なく空き地は諦めて帰路につくことにした。
 といってもそっちの道だって分からない。行きはよいよいなんとやら、とぼとぼという擬音がお似合いな情けない調子でウロウロ。はじめからマッピングしておけばよかったものを、ある程度あちこち行ってからだと改めてやる気力も湧かなくなる。
 萎んだ気持ちは体にもダイレクトに表れる。意気揚々動かしていたはずの足を持ち上げるのもだるくなってきて、サンダルをずりずり引きずるように歩く始末。ごめんバーボンさん、靴底均しておくね。
 今頃お説教モーションの準備をしているだろうバーボンさんへと想いを馳せつつ途中からわざと音を立てて摺足をしていたのだけれど、ずいぶん慣れきった頃、同時にそれに紛れるよう、ほんの小さな音が鳴っていることに気がついた。

 こ、こ、こ。

 リズムとしては足音っぽい。しかし振り返っても周囲を見回しても人影はみられない。本当にゲームから出ている音なのか疑わしくなって一度HMDを外してみたが、部屋の方は無音だった。もう一度付け直してみると無音。歩き出せば再び鳴る。

 こ、こ、こ。

 サンダルを引きずるのをやめて足を上げぺたぺたと歩き、更にはそのリズムを乱してみれば、その音がこちらに呼応するよう、というよりも、こちらの音に紛れようとするかのごとく、私が立てる足音とほぼ同時に鳴っているのだと言うことがわかった。よくよく気をつけてみると、あの視線を感じる。
 立ち止まればぴたりと止む。再度あたりを見回しても、誰もいない。これってちょっとしたホラーじゃありませんか? ありませんと言ってくれる人募集中。
 頼れるバーボンさんがいるであろう家の方向がとんとわからない上なかなか見慣れたと言える風景がなく近付いた感じもしないのが、心細さと怖さに拍車をかける。
 人がばんばん死ぬ映画やゲームはどちらかといえば好きだが、ホラーは苦手だ。その繊細な気持ち分かって欲しい。
 いやこれは単にSE他ソフト側の設定がおかしいんだそうにちがいない。
 ――そう自己暗示をかけ、撒いてしまおうと駆け出した瞬間。
 どん、とまた大きな衝撃とブラックアウトがやってきた。


 はいはい死んだ死んだ。
 しかし今回はまったく悔しくもないどころかちょっと嬉しい。悪夢から目覚めたみたいな気持ちである。さっさと次行こう次、という気持ちが何らかの操作として認識されたのか、白字は演出をすっ飛ばしてぱっと表示されてそのままスゥッと消え、段々おなじみになってきたローディング画面へと移行した。触れてからのフェードアウトとフェードインもいつもより早かった。気が利く開発だ。

「いいですか、絶対にここの鍵は開けてはいけませんよ。僕が帰ってくるまで、触ったらだめ」
「だめ=v

 するりと飛び出たけれども、前回は覚えなかった言葉だ。もしかしたらこうして複数回同じシーンを繰り返すことで追加される語句もあるのか。
 ならばあの子たちからもまだ何か学べるかも、とバーボンさんを見送った後にまた外へ出たが、相変わらずあの空き地には辿り着けず、そしてまたホラー展開ののち轢かれてしまった。前回とも前々回とも違う場所だったように思うのに、この日に外に出ると必ずそうなるように設定されているんだろうか。
 幸い一度覚えた語句はロードして同じシーンに至らなくても消えたりはしないようだし、もうよくわからない視線や音にドキドキするのも嫌なので、次はバーボンさんの言う通り、その帰りをおとなしく家で待ってみた。
 ところがどっこい、バーボンさんは時計で教えた時間を遥かに超えても戻ってこず――、
 ブラックアウトした視界には、BAD END≠ニ表示された。

 死ななくてもダメなのこれ?


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