13

「コナン君、どうしたのー?」

 さらに少年とは別の声色が、入り口のあたりから飛んできた。今度はより女の子らしい声色で、やってきた姿も、パンツスタイルではあるものの少年より柔らかく明るい配色の服に、髪をやや伸ばしカチューシャまでつけたおしゃれさから女の子だろうことがわかる。

「いや、この子……この人、何してるのかなって」

 首をかしげて不思議そうにする少女に、少年は掌で私を指した。なんで言い直したんだろう。

「何してたの?」
「いぬ」
「犬? 探してたってこと?」
「おいぬさんごっこ?」

 ここ掘れワンワン、犬のごっこ遊びをしていたとも言えるだろう。そういう解釈もできる。認める。
 たぶんそう、部分的にそう、みたいに頷く私の口元をじっと見て、少年は何やら若干ホッとしたふうな表情をした。

「こなんくん=v
「えっ、あ、そう、ボクの名前」
「私、歩美〜!」

 やや引き気味の少年とは対照的に、少女はニコニコ笑顔で元気に手を挙げて名乗ってくれた。
 だがコナン君の時と違ってウインドウが光らない。もしかしてモブなのか? バーボンさんさながらの美しい画質で、こんなに滑らかに、表情豊かに自然に動くのに。
 歩美ちゃんはきょとりとして、私に合わせるかのように首をこてんと傾けた。なぜか少年も傾げているが、なんだかちょっぴりわざとらしい感じがする。

「ねえ、服、ブカブカだけど、誰のもの?」

 なるほどわりと目につくらしい。

「ばーぼん」

 さんのものだ。
 ちゃんと私サイズのものは買ってくれたのだが、ゆったりして着心地がいいので、しばしばバーボンさんのTシャツと短パンジャージを拝借しているのである。温感も再現されてはいるのだが部屋の中はいつも一定にあったかいし、体格差でバーボンさんのものだと七分、七分通り越して十分みたいになる。それをそのまま着てきてしまった。外はそれなりに冷えた空気に設定されている。この場所でこの格好は不思議に思える、という話のフラグが立ってたんだろう。

「……へ? それって――」
「おーい、なにしてんだよー」
「すみません、元太くんが途中でお菓子に釣られて……」

 コナン君の声に被せるよう、はちゃめちゃな声量と張りの声が響き、それに可愛らしい声が続いた。
 なんとさらに二人、ちょっぴり太っこい少年と細っこい少年とが駆け寄ってきた。今日だけで新キャラが四人。以降の予算が心配になる大放出である。
 言葉や様子からして、少年二人はこのコナン君と歩美ちゃんと、ここで待ち合わせの約束をしていたようである。そりゃ失礼しましたじゃあ私はここでと立ち上がってクールに去ろうとしたところ、歩美ちゃんが「一緒に遊ぼうよ!」と言ってきた。私の目をみていたので私に言ったのに違いない。
 いいのかと聞く言葉もいいよとかいやだという言葉もまだ知らない。簡単で汎用性が高いものから覚えさせて欲しいものだが、それがあるとすんなりいってつまらないだろうという粋で余計な計らいか。
 頷くことは出来た。しょーがねえなとかいいですねとか比較的ポジティブな受け入れ方をしてくれる、なんて優しいリア充っ子たちなんだと思ったら、遊ぶ予定だったのはサッカーで、単純に頭数が欲しかった模様。

「待って、手を洗ってからにしよ。真っ黒だよ!」

 そう言って、歩美ちゃんは空き地の近くにある手洗い場へと私を引っ張っていってくれた。

「あのね、手を綺麗にしてないと、バイ菌が体の中に入っちゃって、病気になったりするんだよ」
「びょうき=v
「だから歩美のママね、いつもお家に帰ったらまず手を洗いなさいっていうの」

 それは奇遇だ、バーボンさんも似たようなことを言う。つまりバーボンさんもママってことだな。

「なんでもね、しなきゃいけないことには理由があるの。知らないだけなんだよ」

 ちょっぴりお姉さん風の顔つきをしながら優しく語りかけてくるさまはとっても可愛い。これは一部のニッチな需要を担っている大きいお兄さんやら、素直に惚れたりバブみを感じたりしてコアなファンがつくキャラクターなんじゃなかろうか? モブなのが不思議でたまらない。

 サッカー自体はというと、何事もなく終わった……と言いたいところだが、借り物の大きなサンダルだし、なによりこれまでそんな体の使い方をしていなかったもので、そもそも走ることから一苦労、玉を蹴るために足を当てるのも一苦労、思った場所へ飛ばすのなんて夢のまた夢といった有様で、元太というらしい太っこい少年に「へたくそ」とのお言葉を頂いてしまった。恣にしたと言っても過言ではないだろう。皆、歩美ちゃんでさえ、意外と上手だったのである。普段からそうして遊んでいるのだろう。そして歩美ちゃんときたらなにがしサーの姫っぽいポジションでありながら実質は首領といった風であった。
 歩美ちゃんも細っこい少年光彦くんも、はじめてなら上手な方、そんなものですよと慰めてくれたものの、コナン君はそれに同意しつつもごくごく小さい声でこんなへたくそ早々いねーだろとボヤいていた。聞こえてるんだからな。その通りだよ。お目が高い。これも一種のチュートリアルだったのかもしれない。


 日が暮れるまで遊び倒して、歩美ちゃんたちとバイバイをして別れ、そういえばバーボンさんは一時間だけだと言っていたことを思い出した。後の祭り。時スデにカッコ略おしゅし。
 まあ怒られればいいかとのんびりまったりお家を探していたら――ふいに、視線を感じた。
 視線や気配を感じるというのは、五感で受け取った僅かな差異の仔細な内訳をはっきりと知覚出来ずにいるか、はたまたそれらとは別の、未だ解明されない第六の感覚器官が齎しているものだと思っているのだけれど、まさかそれをVRで表現できるとは。
 感動を覚えつつ振り返れば、日の落ちかけた薄暗い路地には誰もいなかった。

 しばらく進んで、振り返って。道を曲がり、わかれ、また振り返って。何度繰り返しても、感覚は消えず、かと言って姿も正体も掴めない。
 流石に気味が悪くなってきた――というか、苛々してきた。
 運任せミニゲームでクリアできないとか、逃げ回る敵の捕獲クエが達成できないみたいなもんである。遊んでいるのはこちらのはずなのに遊ばれているような気分なる。傲慢我儘ここに極まれり。でもわざわざゲームでストレスを溜めたくない。もうお腹いっぱいなのだ。
 駆け出した、そのすぐ後だった。

 ――ばん、と衝撃。
 視界が真っ黒になった。



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