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「あれ? あの人……」 「どうしたの、真宵ちゃん」 「なんか、さっきすれ違った人、どっかで見たことがあるような」 振り返ってはみたが、そのときには既に、エントランスに人影はなかった。 「以前の事件の証人とかかな」 「それならそんなにたくさんいないはずなんだけど、思い出せないなあ」 「遠回しにシゴトが少ないって言われてる?」 「まあいいか! なるほどくん、あのお姉さんに聞いてみようよ!」 ……ムジャキなんだと思っておこう。 フロントに立っていた女性にぼくが弁護士であること、事件について詳しく教えて欲しいことを伝えると、マネージャーを呼んでフロントバックに案内してくれる。 そうして、当日勤務をしていたフロントや宿泊部門の手が空いている従業員を呼んでくれたので、名前や勤務歴や、事件当時の仕事内容、当日何か気づいたことなどないか聞いていく。 それぞれ、フロントでの受付、裏での事務作業、客室の点検、ルームサービスの提供などを行っていたそうだ。 見覚えがあるかと諸星さんの写真を見せれば、フロント近くで仕事をしていた人やその付近を通った人は皆揃ってああ、と言う。 「ちょうどチェックアウトが落ち着いたくらいで人気がなかったので、ロビーにいる姿は目につきましたね」 「その人、結構長いことロビーにいましたよ」 「そうそう、二時間くらいかな?」 「事件で警察が呼ばれるまでね」 「覚えてます。すごい長い髪だなって顔見たら男の人だったから」 「僕も覚えてます、座りもせずにずっとタバコ吸ってました」 「この季節にニット帽を被っていたから……」 「目が鋭くてコワかったから……」 「全身真っ黒だったから……」 「クマが濃くて……」 「顔が土気色で……」 だんだん悪口にしか聞こえない連想ゲームと化し、従業員どうしで盛り上がり始める。ぼくその人の弁護士なんだけどな。真宵ちゃんまでそれを聞きながらうんうん頷いている。おいおい。 とにかく、諸星さんが事件当時ホテルにいたのは間違いないようだ。 資料と彼らの話によれば、被害者は、十一時に清掃に入った際には生きていて、十四時に昨晩から頼まれていたらしいルームサービスを持って行ったスタッフが死体を発見した、ということらしい。 そして、十一時すぎごろに清掃スタッフが、そのフロアで諸星さんの姿を見かけたというのだ。 宿泊客でもないクセに何をやってるんだあの人。 防犯カメラの映像を確認したいんですが、というとマネージャーが部屋を移してデータを見せてくれる。 「弁護士さんも、探偵さんみたいなことするんですねえ」 「そうですね、担当する案件や専門分野によりけりですが」 「あ、なるほどくん。これ諸星さんだよ」 「ホントだ」 諸星さんは、確かに映っていた。フロントの向こう、宿泊階に行くための廊下からロビーへ、ゆっくりとした足取りで歩いてきた。時間は十一時二十分。それから従業員たちの言ったとおり、ロビーで延々とタバコを吸っていた。ヒマな人だな。 十三時四十三分、画面の中の諸星さんは、不意に外のほうを見ると、吸い途中のタバコを灰皿にすりつけ、出て行ってしまう。何かを待っていたのだろうか。残念ながら諸星さんの視線の先が見える防犯カメラは、ホテルに設置されていなかった。 それにしても、彼はいつホテルにやってきたんだろう。そう思って巻き戻してみるが、どこまで遡っても諸星さんがエントランスをくぐる姿が出てこない。 困ったぞ、どういうことだ。アヤしい。とてつもなくアヤしい。 ぼくが映像をみながら唸っていると、ふと、マネージャーさんが声を上げた。 「あら?」 「どうかしたんですか?」 「いえ、そういえば、彼は途中少しの間、女の人と一緒にいたはずなんですが……」 「え?」 言われてロビーに居るシーンを見返しても、女の人とやらは影も形も見当たらない。 ぼくや真宵ちゃんと一緒に肩を並べて画面を見つめ、マネージャーさんも首を傾げる。 「おかしいな……探偵さんと一緒に見た時は、写ってたんですけど」 |