X-03

 被害者の男性は、よく人に金を貸しては質の悪い返済請求の仕方をしていたようだ。そのモウケで生活していたらしい。
 飲み屋巡りやパチンコや競馬などのギャンブル好きだったようだから、同じくフリーターでまちまちな生活をしているだろう諸星さんとは、時間が合わないんだろう。

「じゃあ、誰かにお金を借りていたりしますか?」
「金に困るような生活はしていない」

 うーん、夢追いフリーターでも金に困らないとは、実家がお金持ちなのか、不労所得でもあるのか。だからこんなにぼんやり生きているのかもしれない。羨ましい限りだ。
 いいなあ、と呟く真宵ちゃんには申し訳ない。とりあえず貰った依頼料で事務所の家賃を払って、真宵ちゃんに美味しいものでも食べさせてあげたい。
 そのためには仕事をしっかり終わらせよう、と、資料と彼の発言を頭のなかで整理する。といっても、そんなに増えた情報はない。”安室透”さんが話した内容も、置いていった資料も、ざっとの概要ばかりで、情報が少ない。やる気あるのかなあ。
 このままここにいても仕方なさそうだな、と思いながらも、A4用紙の四分の一程度に印刷された、そこそこ画質の荒い銃の写真を見つけて、それを彼に向かって持ち上げてみる。

「ちなみに、この銃を見たことありますか?」
「ある」
「あるわけないですよね……ってええっ!?」
「グロック22だな。ポリマーフレームでセーフアクション機構を擁するオーストラリア製の自動拳銃だ。グロック17の.40S&W弾に対応したフルサイズモデルになる。グロックシリーズは複数の国で軍や警察といった公的機関で制式採用されていて――そうだな、アメリカのCIAやFBIといったエージェントたちも使用している。限定モデルではないから、日本でなければ、民間で入手出来ないわけでもない。シリアルナンバーが削られているものの、X線等で精査すれば判明する程度だな。もちろん登録している本人というわけではないだろうが、入手ルートが絞り込めるはずだ。照会は?」
「え」

 言われて資料をあちこちめくったものの、銃については画像と、被害者に使用された凶器であることしか書いてなかった。

「そ、それは……わからないです……」
「……」
「ははは……」
「……あまり銃を使った犯罪を扱わないのか」
「いや、そうでもないんですけど……」

 DL6号事件なんて、まさに弾丸の線条痕がネックになった裁判だった。けれど、その銃の種類がどんなものかなんてのは、あまり焦点が当てられなかったし、そもそも既に検察が調べてしまっていたのである。ぼくは、そういうのにキョウミがないし。

「……」
「……お、お詳しいんですね」
「…………。……ゲームで、よく」

 ゲームかよ。仕事しろ。

「……と、ともかく、諸星さんは、殺していないんですよね?」
「ああ。彼はな」
「ええと……無実、なんですよね」
「この件に関しては」

 ……。
 これまたどうも引っかかる言い方だったが、その後は何を言ってもノレンに腕押しトウフにかすがいといった感じで、ただただ諸星さんがヘビースモーカーのダメ人間ということしか分からなかった。
 殺人事件の被疑者になっているのに、呑気に「タバコが吸えなくてヒマで困る」なんて言っている人を弁護するイミがあるんだろうか、いっそちゃっちゃか有罪の木槌を打たれてしまったほうがいいのでは、と弁護士らしからぬことも思ったりしたりしなかったりしたり。
 ……いや、ちゃんと、依頼料を受け取ってしまっているし、無実の罪で裁かれてしまうのはよくない、とすぐに思い直したぞ。

 やはり留置所にいてもラチがあかないということで、ぼくたちは事件現場、”杯戸シティホテル”に向かうことにした。


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