X-05 |
よくよく見れば、映像の十一時三十分から十分ほど、時間が一部飛んでいる。この間のデータがなくなったということらしい。 「あの、"タンテイさん"って……?」 「弁護士さんのちょっと前に来たんです。事件の関係者に依頼されたから話を聞かせてほしいって」 「防犯カメラの映像も見たんですか?」 「はい。それと事件のあった部屋と……リネン庫を」 「リネン庫?」 「リネン庫……ってシーツとか置いてるトコだよね? なんで?」 首を傾げる真宵ちゃんに、マネージャーさんは、諸星さんを目撃した清掃スタッフがいるからではないか、という。 「そのタンテイさんの名前、教えてもらっていいですか」 「茂木遥史さんと仰ってましたけど……」 「なるほどくん、しってるの?」 「いいや。サッパリしらない」 「うーん、入り口でスレ違ったの、タンテイさんだったのかなあ」 「どんな人だったか覚えてる?」 「えーと、ハンチング帽被って、シャツにベスト着てたよ。顔は見えなかったけど」 「あ、その人ですよ。そんなカッコウでした」 明日には裁判が始まろうという事件を、タンテイを雇って調べているヒトって、一体誰なんだろう。検察はそんなことするまでもなく調べられるワケだから、被疑者側か、関係者、第三者の知り合いかな。 弁護士のぼくには知らせずに、何のために? そんなことを考えながら、今度は被害者が泊まっていたというフロアの監視カメラ映像を見る。 「……諸星さん、どこ?」 「オカシイな。あの、十一時過ぎに姿を見たって話じゃなかったですっけ」 「それが、お客様が泊まられていたのは端の部屋で、ちょうどこの映像には映っていないんです……」 肝心なところで役に立たないカメラだ。設置してるイミがないじゃないか。 「でも、部屋に入るのに廊下を通るよね?」 「清掃の時間でしたので、非常階段の扉が開いていたんだと思います。確か清掃スタッフも、その階段を降りていったと言っていたみたいですから」 証拠が目撃証言だけとなるとヤッカイだ。諸星さんも、本当にムジツなら、そんなまぎらわしいマネをしないでほしかった。 マネージャーさんも仕事があるということで、ひとまず被害者の泊まっていたという部屋とリネン庫の場所を教えてもらい、まずは客室の方に向かった。 「結構イイ部屋だね」 そうだな、ぼくのウチより数倍キレイで広い。 事件現場としてまだ保存しているらしいが、今からでも泊まれそうな感じだ。床の血痕さえなければ。 血痕はベッドのそば。入り口からはカベで隠れる場所なので、その付近に立つ被害者を撃つとなれば、跳弾でもしない限り、それなりに部屋の中には入らないといけなくなるはずだ。 家具類も備品もあんまり荒れてないということは、さほど争わなかったか、そんなヒマなかったか。前者なら、被害者が招き入れたということになると思うんだけど。 ……あんなアヤシイ、ふだんアイサツもしない人を、ホイホイ部屋に入れるかなあ。 「灰皿はベッドの横か」 「これもキレイだね。ちょっと灰が残ってるけど」 安室透さんから貰った資料によれば、被害者の部屋の灰皿に、諸星さんの唾液のついた吸い殻があったらしい。それは証拠品として回収されたようだが、白い灰皿にはいくらか灰のアトが残っていて、ホテルのロゴが一部隠れている。 こんなところまで来てわざわざタバコを吸って、しかもご丁寧に灰皿に捨てるなんて、それなりに仲の良いヒトじゃないとムリなのでは。 やっぱり諸星さんウソついてるんじゃ、と言う真宵ちゃんに、否定のコトバを入れられない。 一通り部屋を見終わって、今度はリネン庫に行ったものの、時間が時間で清掃も終わってしまい、パートらしいスタッフは皆帰ってしまっていたようだった。審理は明日だというのに、とくに収穫を得られずに終わってしまった。 |