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 同僚に言われてネットニュースの写真を見てみたところ、偲ぶ会にて発砲する桝山憲三とやらの姿が思いの外しっかりと載っていてなんだかちょっとかわいそうになった。
 運が悪すぎる。いや、そもそも表でそれなりの地位を築いているんだし、そんな場所にいて自分で撃とうなんて思わないで、キャンティあたりを呼んで狙撃してもらえばよかったのでは。このおっさん彼女に嫌われてたのかな。

 桝山憲三と彼が殺害した呑口重彦について、組織に関わりはあるものの内外どちらの者なのかは分からないという段階だったのだが、偲ぶ会終了後の彼ら周辺の有様を見るに、どうも構成員だったようである。
 微妙に惜しい人を亡くした。なんで組織の人間すぐ死んでしまうん?


『――本当かね』
「ええ」

 一方クリスはといえば、偲ぶ会が終わった後に、突然女優業の休止を宣言した。
 枡山の件が判明した際彼のために来日したのかとも思ったが、なにやら時間をかけてやりたい別の目的があるようだ。よく考えなくてもクリスの姿で事足りる案件のためだけにわざわざ新出医院へ通う必要はないもんな。

『彼女がやったということは……』
「いえ、その時間彼女は雑誌記者のインタビューを受けてましたから。動機を見るに図られたものでもないようです」

 新出義輝の死因は確かに感電死であったが、それは実のところ妻によるもので、要するに偽装家庭内殺人だった。女性は怖いって本当だネ。
 彼女が目をつけた点がその事件自体なのか、それをたまたま居合わせて解決したという”探偵”なのかは目下調査中である。うーん調べものが終わらない。

『今はどうしているんだ?』
「悠々と暮らしてますよ。鮮やかに入れ替わってね」
『君のダイビングが功を奏したか』
「さあ、うまく誘われてくれたのか――承知のうえで、あえて乗ってきたということもありえますが」
『構わないだろう。ケージの中にいてくれるのなら、その形がいかなるものでも』

 殺られる前に殺れ精神で新出智明の死を偽装すると、彼女はうまく立ち回って見事彼に成り済ました。
 クリスの通院姿と米国へ出立する新出智明を見ていなければ全く分からなかったかもしれないぐらいだ、うらやましいほど鋼のメンタルである。ちょっとわけて欲しい。
 ちなみに彼の保護については言い出しっぺの法則で、人数合わせの協力はしてもらいつつも俺が偽装を行った。
 ガードレールを突き破ってダイブするまでは結構楽しかったが、水中に沈んだ車内での圧迫感といったら無かったし、酸素ボンベがあるのに浮上するまで非常に落ち着かず息苦しかったので、この先もし死ぬことがあっても溺死は勘弁したい。なにげに俺は水が苦手なんだろうか。

『ジョディ君はどうだね?』
「無事に潜れたようです。ありがとうございます」
『いいや。頼んだよ、また――』
「はい。それでは」

 新出智明となった彼女はその医者という肩書を利用して、なぜか高校の校医というポストへ身を置いた。一体何がしたいんだか。
 厄介なことに学校、特に高校までのそれらは、かなり閉鎖的で社会から隔絶された空間だ。近頃は特に部外者の出入りに厳しくなっているというし、一般人では不審がられず継続して侵入するのは困難だ。
 そのため、彼女の監視追跡をするのにFBIで根回しを行い、ジョディが英語教師として潜入することになった。教師なんて流石に俺は無理だからな。向いてないどころの話じゃない。

 それにしても金髪碧眼のインテリ系美人英語教師か、いいなあ、そんな授業を受けたかった。


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