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 捜査が長期化しそうだからと本国から持ってきたシボレーに乗り、高校より少し離れたパーキングで彼女の帰りを待つ。
 一応ノートパソコンと無線LANカードはあるんだが、いまいち電波干渉が多いしセキュリティが不安で、軽く当たり障りのないネサフをしてから時間を持て余していた。
 捜索の方からいくつか報告を受けたりもしたものの、志保はまだ見つからないようで、収穫はないに等しい。俺も研究所跡をあちこち回ったが、彼女らしい影を見つけることはできなかった。これはだめかもわからんね。

 口寂しくなってタバコをくわえ、その先に火を灯しつつ、そういえばジンはあの謎のポリシーからかマッチ派だったなあ、と思い出す。
 俺も以前はマッチを使っていたこともあったが、正直ゴミは増えるし味の違いがわかるでもなし、あるときライターを貰ってからはやめてしまっていた。
 ……あんまり考えてるとホラー現象が強くなるからやめよう。

 手の中で銀色のそれを弄んでいると、彫り入れられた可愛らしいマークが目について、すこし頬が緩む。
 そのいたずらを施した主は、黒羽快斗と名乗った。
 一見ただの男子高校生だが、世間では怪盗キッドとかいう、名の通った泥棒なんだそうだ。
 父親の死の謎を解明するため、不老不死の宝石を探しているらしい。まるで少年漫画の主人公みたいな子である。手足が機械鎧だったりしないだろうな。
 マジックだかなんだか知らないが、いつもあの手この手で驚かそうとしてくるところや、だんだん口は生意気になってくるのにどこか憎めない挙動が可愛くて、研究所巡りの帰りや手の空いたときなんかに車を出してやったりご飯を奢ったりしている。
 一応言っておくがホモでもショタコンでも援助交際でもない。ないはず。年の離れた弟や甥っ子を相手してるような気持ちになって和んでいるだけなのだ。おまわりさんあっち向いてください。


 コンコンと窓を叩く音がして、そちらを向くとガラスの向こうでジョディが手を上げていた。軽く返して鍵を開ければ、彼女が滑らかな動きで助手席に乗り込んでくる。

「おかえり、”ジョディ先生”」
「あなたにそう言われるとなんだか変な気分だわ」
「似合ってる」
「……そ、そう? ありがとう」

 学校だからか少し地味めでかっちりとしたスーツ姿だ、やはり美人は何を着てもさまになる。


 米花にある高層マンションの21階、何となくフェデラルビルを想起させる階数のその部屋は、潜入捜査のため流石に住所不定で高校教師にはなれないからと借りたジョディ名義のものだ。
 表札には彼女の偽名である”Jodie Saintemillion”の字が掲げられている。名付けについては何も聞いていないが、彼女はワインも好きだし、その産地にあやかっているのかもしれない。
 彼女の部屋とは言うものの、実質拠点の一つという扱いで、俺も他の捜査官もちょくちょく泊まったりしている。流石に高校に通知している住所に資料を集中させるのはマズイので、サロン程度の使用ではあるが。

 鍵を開けて中に入り、俺を促したジョディは、「ちょっと待っててね」と言ってジャケットを脱いでソファに放り、キッチンでコーヒーを淹れて戻ってきた。
 それらをテーブルに置いて、カバンから出したL判サイズの封筒を持ち、ジョディが向かいのソファに座る。若干眉を下げながら、俺の顔を伺うようにして切り出した。

「良い報告なのか、悪い報告なのか、わからないけれど……現像が終わったの」

 彼女がす、とテーブルに置いた写真。始めの二枚を中央に置き、封筒から残りの十数枚を次々と取り出してその周りに並べていく。
 それらは先日、ジョディが新出医院に忍び込んで撮ってきたものだ。“彼女”は部屋の壁に幾枚もの写真やメモを貼り付けていたそうだ。
 真っ先に目に入ったのは、赤みがかった茶色でふわりとした髪を持つ、無愛想な表情をした女性の写真。


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