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明美と志保が久々にお茶をするのだという日でもある今日、明美は約束の時間を過ぎても未だ現れない。 数日前、南洋大学の学生二人が死体で発見されたといった内容のニュースが流れてたため、どこかそんな気はしていた。 手持ち無沙汰にベンチで待っていて不意に胸元で震えたのは、連絡用の端末ではない、俺の携帯だ。番号は非通知だったが相手の見当はすぐに付いた。よく二年間も使っていない番号を覚えていたな、と感心する。 『……”秀一”くん。ごめんね、場所を変えたいの』 「そうか、どこに?」 平静を装った声で告げられた場所は、南洋大学のある静岡ではなく東都だった。 「分かった。向かおう」 ――ああ、失敗してしまった。 まあ、さもありなんという感じだ。 こちらに来てからはそれなりに配慮した端末でやり取りしていたが、それまで彼女が使用していたのは何の変哲もない大学生のものである。それが多数の人間のものであったのは、一つ一つを追えないのと同時に、その全てに口止めすることは不可能だということでもあった。 加えて、彼女なりに考えてはいただろうけれど、自由に行動できていたということはそれだけ軌跡が増えるということで、その分の情報と隙を与えていたことに他ならない。動けば動くほど枝葉の管理が出来なくなり、その中のどれがキーになったのか分からなくなる。俺達だって感づかれる要素は多々あったので、人のことを言えた義理じゃないが。 そのあたり今からどうにかするのは、電話レンジがあるわけでもない俺には厳しい。 仕方ないな、と要件だけで通話の切られたそれは仕舞い、もう一つの携帯を取り出して発信しながら無線機の回収を行い、用のなくなったその場所に背を向けて歩き出した。 『もしもし? どうしたの、トーヤ。まさか』 「そのまさかだな。彼女は難しいかもしれない。もう一方は?」 『それが……。いなくなっちゃったみたいなの』 「……どういうことだ」 『監視の一人が席を離れたあと、あの喫茶店に警察が来たらしいのよ。詳しいことは分からないんだけれど、”入り口”から聞こえた限りでは、車上荒らしが出たとかで……その隙に恐らく、トイレに行くふりをして、従業員出口から』 「何も伝えてなかったのが裏目に出たな。知らずにいれば大人しくしてると思ったが――姉が来なかったからか」 『今、ウィリアム達が探してるわ。でも手間取りそうよ、あの辺り流してるタクシーが多いから』 話している間に道沿いに出てすぐ、ジョディの運転する車がやってきたので、通話を切ってそれに乗り込む。念のためそれなりに走行性能のいい車に変えていたのだが、料金が加算されそうだ。 ここから東都まで少なくとも二時間はかかる。――ままならない。思わずため息が漏れた。 ポケットを探って出てきたタバコは、ジョディがあまり好きでないゴロワーズ・カポラルだった。そういえば吸っていなくて余っているからと持ってきてしまったのだ。しかし、ちょっと吸わずにはいられない。シガーライターをつまむ指が、ソフトケースを持つ掌が、心なしか湿っている気がする。 「……すまない」 「どうして謝るの? これから取り返せばいいだけだわ」 ハンドルを握る彼女が煙を気にした様子はなく、その言葉にああ、そっちも謝らないといけないよな、と思い直す。 ちょうど鳴り響いたジョディの携帯に俺が出て、警察に足止めを食らっているという監視者を張っている部下にも、捜索の方へ回ってもらう。 とにかく他の捜査官に被害が出ないようにしなければ。リターンがないのでは彼らが傷を負ったって無意味だ。 |