05

 車内で準備も着替えも済ましてしまってしばらく、辿り着いたのは東都にある埠頭だ。見たことがあるのは気のせいじゃないだろうな、なんとも悪の組織が好きそうな待ち合わせ場所である。
 何人かの捜査官が付近にやってきてるらしいが、ほぼ確実に向こうはこちら以上の人数を配置しているだろうし、二人で行ってまとめて退路を絶たれても困るので、自分も行くといったジョディには入り口で待機をしてもらった。


 明美はコンテナヤードの一角に立って待っていた。
 足音を聞きつけてこちらを振り向いたその姿に銃口を向けるが、それに怯む様子は見せなくて少し感心する。ちなみに潜入捜査の時と同様別ルートで持ち込んだ、日本警察に見つかってはマズい銃である。

「ごめんなさい、“秀一”くん……」
「謝罪はいらない。それよりも、そこの彼氏を紹介してくれないか」

 その俺の声に待ちわびたとでも言うように、コンテナの影からカツカツと聞き覚えのある革靴の音を響かせ、以前と変わりない格好のジンがタバコをふかしながら姿を表す。俺ですらお洒落ではないにしろ服は色々と変えているのに、ポリシーなのか物持ちがいいのか。
 ジンは明美の背後からその体を拘束し、彼女の米神に銃を突きつけて笑う。あまり気持ちのいい絵面じゃない。

「紹介なんざいらねえだろ? ライ」
「どうでもいいにはいいが、せっかくだ、元恋人に一言くらいあってもいいだろう」
「ああ、あの猿芝居はもうよせよ。お前がこの女のために来たのは分かってる」
「そうか。随分いい観客だったから、アンコールをお望みかと」

 パシュ、と軽い音がして足元のコンクリートが抉れた。相変わらず怒りっぽいやつだな。

「――その玩具を捨てろ。両方だ」

 言われて銃とインカムを地面に放り、両手を軽く挙げると、間を置かずインカムが撃たれて壊れる音がする。構えもそこそこになかなか綺麗に当てるものだ。そこまでやるとジンがまた銃口を彼女の方へと戻した。
 まだポケットに携帯は残っているが、少し遠くの、恐らく埠頭入口あたりがやや騒がしく、援護は期待できそうにないのを悟る。

「これも“あの方”の命令とやらか?」
「ぬかすな。こんなつまらねえ小事、あの方が気にするほどでもない……」
「お前の個人的な狩りというわけか。たったこれだけにぞろぞろとよく引き連れてくる、まるで王侯貴族のようだ」
「そういうFBIは随分人手不足のようだな?」
「ああ。世知辛い。なんならお前もコンサルタントに招こうか」
「いいぜ、背後からそのふざけた事をほざく頭を撃ち抜いてやるよ……」
「それは遠慮したい」

 ぐい、と明美の首を固めるジンの腕がやや上がる。

「馬鹿な女だ。こんな男に未練がましく縋り付きやがって。それでも目と耳塞いで大人しくじっとしてりゃあ、テメエ一人は逃げ遂せただろうに」
「悪いが、手放せないのは俺の方でね」
「その髪――女のために切ったのか?」
「まあ、そうなる」
「趣味の悪い男だ……」
「お前ほどでも」

 ジンの女が誰かなんて知らないが、それも気に障ったらしい。肋のあたりに衝撃があった。

「……は、じゃあそれほどまで好いた女のために死ぬ幸福ってやつを与えてやるよ……味わい尽くせるよう、じっくりとな」

 俺は撃たれたって痛くはないし防弾ベストも着ている上すぐ治るからいいのだが、多分明美はそうじゃないだろう。だから標的を俺にして置いといてくれるというなら願ったりだ。
 どうもジンは俺を嬲りたいようだから、適当に幾らか受けたところで、予備に持っている銃を使えばいい。

 だというのに。完全に不意を突かれた。思いもしなかったのだ。
 甚振るように撃ち込まれる弾丸を黙って受け、少しの隙を見て懐から取り出したそれを向けた直後。


 まさか――射線上に飛び出してくるなんて。


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