C-4

 その”近衛先輩”の家も、訪ねてみれば留守だった。
 これまたおっちゃんが大家に事情を説明しにいくと、男もここ三日ほど顔を見ていないという。もしかしたら大家が会っていないだけで、帰ってはいるかもしれないと他の住人にも話を聞きに行ってみるが、生活時間のまちまちな住人たちの話をまとめれば、ほぼ丸三日男の部屋辺りから物音はしなかったとのことだ。
 いよいよ事件の色が濃くなってきたんじゃないか、と、ずっと面倒くさそうにしていたおっちゃんの雰囲気が引き締まる。これでも一応刑事をやっていた男なのだ。

 しかし、事件の可能性があるからと大家に部屋を開けてもらってすぐ、彼らは腕組みして笑いながら、なんとものほほんとした様子で帰ってきた。
 自分の部屋に入ろうとしていた俺たちを見て驚いた男女にうっかり通報されかけ、慌てておっちゃんが名刺を差し出し大家とともに事情を説明する。
 それから向こうの話も聞いてみたが、蓋を開けてみればなんともない、どうも三日間二人で旅行に行っていただけらしい。自分たちが探されていたなどと寝耳に水だったようだ。浮気しておきながらよくやるな、こいつら。
 いくつか気になっていたこともあるのだが、少し過敏になり過ぎていただけみたいだ。――そうだよな、”奴ら”がこんななんでもない大学生に関わる理由がない。乾いた笑みが漏れる。

「広田さん、心配してましたよ」
「広田? ええー? わたし、何か忘れてたかなぁ……」

 蘭の言葉に、”マリ”は綺麗に巻いた髪をさらりと揺らして首を傾げながら、人好きのする笑みを浮かべて「ありがとう」と礼を言った。



 ――と、あっという間に解決してしまった依頼の結果を、ときどき蘭が補足を入れつつもおっちゃんが説明を行えば、連絡を受けて急いでやってきたらしい広田さんは、心底安堵したように息を吐いた。

「じゃあ、本当に何もなかったんですね」
「何もというか、まあ別の修羅場はあったというか、これからあると思うけどな……」

 そんなおっちゃんの引きつった表情もなんのその、広田さんは満面の笑顔で依頼料を支払い何度も礼を言う。
 心配だったのは分かるけど、幼馴染みが知り合いの男を盗って浮気を、しかも自分との約束を忘れ呑気に旅行なんぞしていたというのに、何も思うところがねーのか。
 オレとおっちゃんは呆れ顔で、さすがの蘭も苦い笑みで、非常にご機嫌な様子で帰っていく広田さんを見送ったのだった。

「まったく、しょーもない依頼だったな」

 なんて言って競馬中継を見ながらタバコを吸うおっちゃんに、そりゃーしょーもない探偵に来るのはしょーもない依頼だろうよ、と内心悪態をついていた。――数日後、見覚えのある男女が死体となって発見されたという、ニュースが流れるまでは。


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