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 きゅ、と寄せられた眉が可愛らしい。
 ……無論”そういう”意味ではない。お巡りさんは俺です、こっちじゃないです。
 なんだなんだ、俺より彼のほうが人好きのする顔をしているのに、日本語が通じる方がいいんだろうか。ひっそり面食らっていると、やや困惑した様子の部下が俺のそばに寄り、小声で状況を聞いてくる。

「赤井さん、この子は……?」
「……観光客で、連れとはぐれたらしい」

 まだこのストリートに奴がいないとも限らないしちょっと連れを探してくる、と言えば、いやいやそれなら俺が行きますよ赤井さんがやるほどのことじゃないです、いや俺が、いやいや俺が、となにがし倶楽部のようなやり取りになってしまった。
 最終的には、一般人の安全確保が終わればすぐ戻るからと上司に報告して、彼にはキャブを呼んで入り口に待機させ、その周辺の警戒を行ってもらうことになった。もともと俺は望み薄な方のメンバーだったしな。


 ぎい、と古いドアを開けて中に入り、気配を探りながら移動する。一階にはいないようで、二階へ続く階段を登った。

「あの……どうして通り魔のことを? 警察の人、とかですか?」

 夜のNYで一人突っ立ってることと言い、こんなところにほいほい付いてくるところといい、こうやって話しかけてくるところといい、怖いもの知らずだな。小さく笑みが漏れた。
 彼女に知られてどうということはないだろうが、あまり自分のことを喋るのも躊躇われて、別に水を向ける。

「……それより、連れというのは君の恋人か? 君も高校一年生くらいだろう、同い年どうしか」
「えっ、そ、こいびと、なんて! 違います! 同い年だけど、ただの幼なじみで……!」
「ただの幼なじみというには、ずいぶん可愛いリアクションだ」
「その、もう、しょっちゅう、そうやってからかわれてるんです!」
「頻繁に揶揄されているなら、思うところがなければ、逆に慣れるものだと思うが」
「ご、誤解されたくないんです! あいつとなんて!」
「それはそれは」

 薄暗い最中、はっきりとは見えないが、ぶんぶんと手や顔を振る仕草はなんだか微笑ましくなる。
 あいつなんてと言いながら、心底心配してこんな危険な場所までやってくるのだ、彼氏冥利に尽きる、可愛い彼女じゃないか。いいなあ。
 勘違いしないでくださいよ! と慌てる少女に、承知した、と返しつつ隣のフロアのドアを開ける。その瞬間、建物の外から低い轟音が響き、部屋の中に強い光が届く。

「――」

 男の子を迎えに行くだけだしと気楽にいたのだが、雷で照らされた室内を見てその呑気さは霧散する。

 床に滴る血痕は、まだ新しい。
 それが少年の血液だというならまだいいが、”彼女”のものであれば。

 血痕の向かう先は屋外階段へ続く扉。
 軽く背後を振り返ってみるも、ここから入り口まで少女を一人で帰らせるには幾分、中に入り込みすぎている。

「――いいか、離れるな、何かあれば俺を盾にして逃げろ」

 拳銃を取り出して構えた俺に、先程まで赤面していたはずの少女が、ごくりと喉を鳴らして身を固くした。


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