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 仲間がいる可能性もあるだろうが、一人ならば手負いでそう遠くへは行けまいと、上司の指示で、前者の場合では逃走車両の確認、後者は付近のストリート・アベニューへ向かうように、同僚部下たちが再度遠方・近辺に振り分けられる。
 俺はそのまま、迅速に出入り口を固められたストリートを隣から順に潰していくことになった。
 ”長髪の日系人”が組織のメンバーであるかもしれないことも伝えると、発砲は構わない、けれどもなるべく生かして捕らえるようにとの命令が下る。
 
 そうして、二本横のストリートへやってきて、目についたのはイエローキャブと白い傘。近づいてよく見ると、向こうもこちらに気づいたようで顔をあげた。どうも日本人観光客の少女のようで、瞳には涙が浮かんでいる。
 早く帰ったほうが良い、と言おうとして、キャメルのことを思い出す。そういえば彼は、一般人を退去させようとして失敗したんだったか。

「――!」

 しかし、俺と手元に握った銃を見てがちがちに固まった体と、ひどく怯えた表情はどうみても一般人のそれ。これで演技ならお手上げだ、なんとかっていう大女優も顔負けだろう。そっとポケットの中に手を戻した。
 その少しの間に少女の後ろにいたキャブの運転手が、「やべーよやべーよこいつ通り魔だよ! 乗らねんなら行くぜ!」とかなんとか喚きながら猛スピードで走り去って行ってしまった。
 確か一般向けには、深夜に女性を狙う通り魔で、長髪の日系男性との情報しか流されていないはずだ。まあその反応は頷ける。
 気持ちはわからんでもないが、明らかに対象外のおっさんが女の子を置き去りにするとは。それにここまで怯えられるとちょっとショックである。忘れかけてたが、子供にギャン泣きされる顔だったな、俺。

「……この辺で怪しい男を見なかったか?」

 ”銀髪で、ヒゲ面の”、に心なしか力をこめて、なるべく穏やかな日本語で尋ねる。違うんだ、俺じゃないんだ。

「え? ……い、いえ、誰も」

 殺人犯のターゲットには当てはまらないし、表通りの方角だけ教えて放っておいても良いかもしれないが、万が一遭遇すれば口封じにあうということもありえないわけじゃない。
 それに、あっけにとられて表情を緩めた少女は――どこか明美に似ている。

「そうか。どうしてこんな時間に、ここに?」
「あの……私が、タクシーから大事なハンカチを落としてしまって。連れが取りに行ってくれたのを待ってたんです」

 せめて車内で待てば良かったろうに。
 日本人は平和ボケも激しいと聞くが、この無防備さと危機感のなさは不安になるな。海外旅行は初めてなのだろうか。

「その連れというのは」
「高一の男の子で……」
「どこにいったんだ?」
「そこのビルの中です。ハンカチ、上の手すりに引っかかっちゃったので……でも、ちょっと遅いな……」
「俺が連れてこよう、その間……ああ、丁度いい。彼と一緒にいるといい」

 丁度近くに車をつけて降りてきた部下の姿を指すも、少女は視線を部下と俺の間で一往復させ、おそるおそる、しかしはっきりと声を上げた。

「……私も、行きたいです」


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