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捜査の方針を改めて確認している最中に、おそらく向こうのチームのメンバーであろう人物が駆け込んできた。 「――五件目だ」 いかにもドラマティックである。 事件現場を起点に、目撃情報を参考にしつつ逃走ルートをシミュレートしたのち、人手を分けて追うことになった。 このエリアは私が行くから、シュウはあっちに行って、とジョディに言われ、そのさまが異を唱えさせぬ勢いだったので、若干引きながらも頷く。 彼女が行くといった北の方は犯人が潜伏している可能性の高い場所だ、危険だし俺のほうが良いのでは、とは聞いてみたが、増員するから大丈夫とのことだった。 まあそれなら、と、俺は彼女たちより幾分少ないメンツで南の方へ向かった。そのあたりがフラグだったのかもしれない。 「ようやく来たのね、待ちくたびれたわ。仕事は捗ったけれど」 路地裏で俺を迎え撃つように立った殺人犯は、滑らかな日本語を使い、ニヒルに笑った。言っておくが、銀の長髪で、”ヒゲ面の男”である。台詞に誇張や改変は一ミリたりともない。 さほど大きくない体を猫背に丸め、銀と言ってもくすんだ鈍色のパサついた髪を雑にまとめているもの、顔も服も全体的に薄汚れており、まるで浮浪者だ。あまり頭が回るようは見えない格好だ、人は見た目によらないもんである。 サイレンサー付きの拳銃を構えていたので、こちらも同じく銃口を向けた。 「……」 のはいいものの、ついさっき発砲について怒られたばかりだ。しかも相手はアジア人で、更にはオネエのようである。 余計マイノリティな団体がやかましくなったりしないだろうか、とちょっと不安になって躊躇っているうちに、向こうは普通に撃ってきた。一発どころではなく。 「あら? 銀は錆びないと思っていたけれど――」 彼、いや、彼女? のそれはまるで煽るような仕草で、かつ銃口の向きと指の動きが見えていたため、避けることは出来た。 しかし、非常に危険な行為である。相手が発砲してくるなら構わないとは言われていることだし、と撃ち返す。撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだってやつだな。 銃弾はオネエの脇腹に当たった。致命傷にはならない程度に足でも狙おうとの考えだったのだが、躊躇と彼我の回避行動により結構ずれてしまった。 「ふ……いえ、気のせいだったみたいね……でも、レディに向かって、いきなりこれはないんじゃない?」 「せめてヒゲ剃ってから言えよ」 思わず口に出た。 「聞く耳さえ失くしたのかしら? まったく、」 血の滲む脇腹を抱えながらも、余裕の笑みを崩さないのは凄まじい、色んな意味で。その根性を外見の方には使えばよかったのに。 もう一発、確実に動きを止めようと照準を合わせる俺を見て、オネエは続けようとした言葉を一旦飲み込み、懐から出した黒い円筒型の物体を素早く地面に転がした。 「……確かに、無粋で野暮な男だわ、”ライ”……」 ――その言葉と声色に、ざっと冷や汗が出る。 少し身を固めてしまった間に周囲には煙が広がり、彼女の気配はあっという間に遠ざかって消えてしまう。 とりあえずなるべく息を吸わないようにして煙から離れ、メンバーと上司に連絡を取った。背後から同行していた男が駆け寄ってくる音がする。 しかしスモークグレネードだったのが幸いだった、フラグやスタンだったら結構危なかったところである。 それにしても、いつもいつも組織はどこからあんな装備を手に入れてるのか、甚だ疑問だ。そのあたりもジョディたちと対組織チームで調べているはずだが、派手で高価な武器兵器類が多い割にはなかなかルートを突き止められない。そのうちアパッチでも持ち出してくるんじゃないのかあいつら。 |