11

 社内ニート生活も終わり、現場復帰してしばらくは何事もなかった。
 しかし、どうも俺はFBIには向いてないようである。

 危険な動きをした容疑者を射殺したのだが、それが黒人で、ポケットに手を入れただけで銃を見せたわけではなかったのがいけなかったらしい。
 潜入捜査の後始末をほぼ丸投げしても穏やかだった上司に、わりと怒られてしまった。
 なんでも少し前、私服の警官相手に怯えた黒人男性がただ家に入るため鍵を出そうとしたのを、銃だと思い込んで射殺してしまった事件が問題になったらしい。
 近頃ただでさえ相手が黒人だと人権団体がうるさいそうで、あれより人気がある場所で、お前が白人だったらもっと大事になった可能性もあると言われてしまった。なるほど、時代がよくわからん。

 プレイヤーがハンターでも軍人でも敵のモーションとSEで判断して動くのはアクションの基本で、先制攻撃や決め撃ち等は必須になるのだが、FBI捜査官はそういった立ち回りがアウトのようだ。
 まあ、ただ殺せばいい悪の組織と違うのは当たり前だろうけれど、それにしても、攻撃を加えてくるかもしれないのに生かしておくのは落ち着かない、撃って色々言われたり後始末があるのもめんどくさい。公務員は世知辛い。
 シミュレーションやアドベンチャーの類は苦手なくせに、どうしてジャンルを変えてくるんだ俺は。

 実際に銃を持っていて引き金に指がかかっていたし、なによりあの男は予想以上に余罪が多く、精神や思考も危険人物のそれだったらしいから、なんとかクビにはならないようだが、ひとまず次から気をつけることにする。そして、ジョディにももう一回謝っておこう。


 フロアを移り自席に戻る途中、いかつくがっしりとした白人男性が手を上げ声をかけてくる。たしか珍しくニューヨーク生まれニューヨーク育ちだと言っていた同僚だ。

「Hey,minute man! やらかしたんだって?」
「暫くご無沙汰だったもんで」
「No kidding. まあ、結構ヤバい奴だったんだろ、あれじゃ彼女が死んでた」
「いや、余計なことをした」
「知ってるぜ、ケンキョってやつだな」

 そう笑ってから、男は一度「待ってろ」と言い、自分のデスクに置いていたらしい紙袋を持ってきて、俺に差し出してきた。

「店はクイーンズだ。多分まだ食ったことないだろ?」

 まばゆい白い歯をきらめかせる彼に、礼を言うしかない。

 なぜか、何度か適当に買って食っていたのを見て俺がサンドイッチ好きだと思い込んだ人物がいたらしく、その人物がくれたサンドイッチを食って礼を言ってから、同僚皆がやたらとあちこちのサンドイッチをくれるようになった。
 そんなに好きなわけでもないのだが、わざわざ人気のレストランやデリから買ってきてくれたものをいらないとは言えず、毎度美味しいありがとうと食べるはめになり、それで余計に持ってくる人間が増え、”ずーっとずーっとくりかえして、ほらサンドイッチスパイラル”、みたいな状態だ。
 おかげで口内の水分が奪われまくって砂漠化が激しい。
 それを補うためにコーヒーをがぶ飲みしていたら、最近はちょこちょこそっちも淹れてもらえるようになってきて、コーヒースパイラルも始まりそうな予感がしている。アメリカ人は施し好きなんだろうか。

 今日も今日とて施しのサンドイッチとコーヒーを胃に流し込んでいたら、別のチームの上司から呼び出しがかかった。


 呼びだされたのは俺とジョディと、他に同じチームが四人。向こうは七人。ほかにもいるらしいが、メインがこの人数とのことだ。
 人数の割にはやや狭い個室で、別チームの上司が資料の紙を見せ、チームのメンバーらしき男達が代わる代わる、被害者資料や犯行現場指標など事件の情報を話し始めた。

「――シングルの連続殺人犯だ」
「この二ヶ月、冷却期間を置きながら四件」
「凶器は一貫して同一の消音銃。被害者は社長、技術者、弁護士に薬剤師、全て若い女」
「初めは契約殺人ではないかという話だったのだが、回数を重ねるにつれ、組織内殺人の色が濃くなってきた」
「一見何の関係もないように見えた被害者たちが、詳しく調べているうちに程度の差はあれど同一の組織に関わっているらしいことが判明した」

 そういった内容の説明を受けて、ジョディが身を乗り出す。

「その組織が、私達が追っている彼らの可能性がある、ということね」
「ああ、そうだ」

 要するに、組織についての情報を教えてくれというのと、捜査を一緒にやろうということだった。連続殺人犯一人に大掛かりなもんである。
 特に口を出すところもなくて黙って聞いている間に、二つのチームのメンバーたちはあっという間に結束して、あれやこれやと言葉を重ねていった。

「殺人の実行までは計画的でスマートだ。被害者特有の行動を鮮やかに利用していて、現場での滞在時間は非常に短い」
「しかし、こいつ、逃亡の際必ず二、三人に目撃されていて、かつ警察から巧妙に逃れている」
「わざととしか思えないな」
「わざわざ姿を見せることに意味があるんだろうか」
「変装か? しかし、あれほどの手口を見せる男ならば、一切姿を見られず逃亡を行うことも可能なはずだ」
「アリバイ作りをしたいんじゃないのか」
「いずれかの従業員や同僚かとも考えたが、今の段階では犯行が可能な人物はいなかった。目撃情報に似た人物も」
「偽装でなく姿を印象付けようとしていると?」
「なにか意図がある? 死体にメッセージ性は見られなかったが……」
「警察が追い始めるとすぐに捕まらなくなってしまうところも気にかかる」
「先日の目撃情報はハーレムだったな」
「目撃者の言う犯人像は一致している。――”長髪で日系の男”だ」


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