J-4

「シュウ! なんてことを!」

 その直前に鳴り響いた銃声、頭部から溢れる血、状況的に私の背後にいた彼しかありえない。
 彼は私の非難する声色に構うことなく、片手に持つ銃の引き金に指をかけたまま倒れた男に近づき、捲り上げられた袖から露出する、浅黒い筋肉質な腕を掴みあげた。その手が握っていたのは、コンパクトピストル。
 男が動かないのを確認すると自分の銃をしまい、かわりに男の小さな銃を取り上げる。

「もう少しでお前がこうなっていたところだったぞ」
「まさか」
「その男のポケットから鉄と銅のぶつかる音が聞こえた。この銃と……おそらくはクオーターかダイム」
「そんな音、聞こえなかったわ」

 FBIのテストには聴力検査もあり、私もそれをパスしているはずなのに。
 ジャンパーのポケットを探って引き出したシュウの手には、25セント硬貨と50セント硬貨が一枚ずつ乗っていた。

「ハーフダラーだったな」

 彼は意外そうに手の中のそれを見るが、硬貨がいくらかなんて問題じゃない。この雨の中、したかどうかもわからないポケットからの小さな音だけで男を撃ったというのが問題だ。
 結果的に銃ではあったが、背後には建物のドアがあったのだ。

「彼は銃を見せてはいなかった……」
「だが、お前が銃口を向けた時、こいつの前腕は少し盛り上がった。手先を引き出すだけならしない動きだ。大人しく従おうとするやつが、鉄と銅のぶつかる音をさせながら、ポケットの中の物を握るか?」
「もしかしたら、ただのカギだったかもしれないわ」
「あれは真鍮と当たって鳴る音じゃない。振り返り方が半端だったのも、お前にすぐには悟られないよう照準を合わせるためだ」
「――」

 シュウはまるで当たり前のことのようにそう言い、硬貨と銃を右手にまとめて乗せると、報告のためか携帯を取り出し電話をかけようとする。

 他人を攻撃することについて躊躇いを見せないのは以前からだし、彼は特にその判断も早かったが、しかし、それは対象を無力化するため必要なことで、私達だって同様に行っていたこと。
 もちろん、質の悪い危険人物にみすみす殺されてやるようなことがあってはならないから、射殺するほかないという場合だってある。時にはそういう選択もすることがあるのだけれど。
 ――こんなに簡単に、命を奪ってしまうような人だったろうか。
 広がる男の血を避け、じゃり、と音を立てる、その足がなにかひとつ、ラインの向こうを踏んでしまっている気がする。

 彼は、なんと声をかければ良いか迷う私をちらと見て、困ったように少し笑った。

「……悪かった。情報を得るチャンスを潰してしまった」

 そうじゃない、そうじゃないのよ。シュウ。


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