J-3

 シュウは、出勤するようになってからしばらくの間、セミナーを受けたりファイルを読んだりと過ごしていたが、それらが落ち着くと徐々に現場に出るようになった。
 はじめはミーティングや後方支援に徹していたが、最近では私と同じチームで、あちこちの捜査のため外に出たりもする。

 以前よりも、彼のそばには居やすい。
 三年前はスナイパーという役柄と、その持ち帰る益も多いことから単独行動が黙認されているところがあったようで、たいていフロアでは姿を見ないし、何をしているのかわからないことがしばしば、いや、だいぶあった。それに、私も入局して間もなく、彼の姿を追い回してばかりいるわけにもいかなかったのだ。
 以前と比べ、大人しく席に座っている時間の遥かに長い彼が珍しくて、いるのがわかるとついつい構いに行ってしまう。しかも邪険にする様子もなく私の淹れたコーヒーをすするのでなかなかやめられない。
 そんな私とシュウの様子を微笑ましそうに見ていた同僚たちが、ついには二つ目の椅子を用意してしまったのだが、彼はそれすら気にしていないようだった。

 私達が関わる事件の多くは組織絡みだ。
 組織との関係が疑われる、取引相手の可能性がある、あるいは利用されたと思われる、人物や企業、また、更にはその関係者や身内。そういった人間を探して、わずかでもその残り香があれば担当を回してもらい、徹底的に調べていく、ひたすらそれの繰り返し。

 少なくとも私が子供だった頃から存在していて、私やシュウが何年も追っているのに、なかなか情報の得られない組織だ。捕まえるのにはまだまだ、気の遠くなるような時間と手間が必要だろう。
 それでもかまわない。たとえおばあちゃんになったってきっと捕まえてやるわ。
 ほとんど無意識で、右手は古びた眼鏡のリムに触れていた。



 その日の事件もそういった、組織の関与が微かに疑われるものの、ハタから見ればFBIの出番なんてないような小さいものだった。
 組織と取引を行い殺されたのではないかという人物の友人が、別件で殺人と窃盗を犯してニューヨーク市内を逃走中とのことで、捜査中の市警から情報が入り、私達のチームへ担当を回してもらったのだ。
 関連の人物から容姿等は聞き出すことができたし、潜伏場所はすぐに見つけられたが、気配を察して逃げ出した男と私で追いかけっこになってしまった。ちょっと間抜けだ。
 待ちなさい、と叫ぶ私の声が聞こえたらしく、別の出入り口へ向かっていたシュウも後ろから駆けつけてきてくれて、申し訳なくなる。

 幾つかのアベニューを越え、シュウとふたりでその人物を追い詰めた、人気なく小汚い路地。
 黒人の男は観念したのか、肩越しに私達の姿を認めると、ジャンパーのポケットに手を入れたまま、ゆっくりとこちらを振り返る。
 私は彼に銃口を向けた。

「FBIよ。両手を出して、上に挙げなさい」

 ――そう言うつもりだった。
 しかし、そのセリフを私が口に出す前に、男の体はべしゃりと音を立て、濡れた地面に崩れ落ちてしまう。


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