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 ついにジンとの仕事の日が来てしまっていた。
 この二週間、盗聴器があると思うと、大したことはやらないにしろ、ずっと居心地が悪くて仕方なかった。というか、なぜジンは俺を疑っているのか。そこまでやるほど怪しいことをしていないのに。
 バーボンによると、「あなたが組織の命令に忠実で、任務を完璧にしすぎるから、ジンはそれが気に食わなくて疑いたくなるんですよ」とのことだが、組織を思えばそういう人材のほうが有益だし信用を置けるもんではないのか。ジンは、キャンティみたいに文句言ったり、ウォッカみたいにちょっとおっちょこちょいだったりする子がタイプなんだろうか。

 それはさておき、今日も今日とて俺はポルシェのハンドルを握っている。傾き始めた陽を遠目で眺めながら、二人でドライブデート状態だ。前回に引き続き運転手役だけということは無いと思いたい。
 以前の仕事はこれの準備のためだったらしいのだが、あのUSBには何かのゲノム情報だかなんだかが入っていたらしいことしか分からなからなかった。そして、ジンと接触するタイミングがなく、また彼は俺に対してそう多弁でもないので、今もそのUSBがあるのかどうかさえも不明だ。
 ……諜報員としていまいち仕事をしていない気がするが、幹部をとっ捕まえたという功績だけで勘弁してほしい。もう拘束した後ボスのことも含めまとめて本人に聞けばいいじゃない。

 時計を見ると現在17時45分、港まであと10分。取引時刻にはちゃんと間に合いそうだ。
 ジンはいつもに増して機嫌が悪い。
 強請ってみたら煙草はくれたが、俺の差し出すショートホープは受け取ってくれず、ずっと腕組みしたままフロントガラスの向こうを睨みつけている。うーん、バレてる?

 ふと、静かな車内にデフォルト設定らしい着信音が鳴った。
 断ることもなく電話に出たジンが、ふんふんとなにやら相槌を打っていたかと思うと。

 ――電話を切った瞬間、なんと俺に発砲してきた。あらまあ。

 横目でちらちら眺めていたのが幸いして、懐に手を突っ込んだ姿に不穏さを感じて座席を倒し、銃弾はなんとか俺に当たらずフロントドアガラスを割るだけで済んだ。
 流石にびっくりして動揺で回してしまったハンドルをそのままに、クラッチを切りサイドブレーキを引いてスピンターンする。

「なっ……!」

 ジンが横Gで崩した体勢を整えている間に急いで車から降り、それから道沿いにあった工場らしき施設まで全力で走って、その塀の裏に身を滑りこませた。
 同時に破裂音が響き、先程まで自分がいただろう場所のアスファルトが若干抉れた。結構ばんばか撃つなあ。人の事言えた義理でもないが。とりあえずポケットの中を探って、携帯の短縮ボタンを押しておく。
 恐らくポルシェから降りたのだろう、塀の向こうでドアを開く音と、コツコツという靴音がした。

「ようやくしっぽを出したか、ハムスターちゃんよお……」

 えっなにそれ。かわいい。




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