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「一体何の真似だ、ジン」
「取引場所にFBIがいたんだとよ、ネズミのテメエが呼んだお仲間がな!」
「……」

 なるほど。ネズミの中でもハムスターはしっぽが短いから?
 ジンのビジュアルと声でそんなこと言うとだいぶシュールだ。

「いくら調べても端緒もつかめない、何を言いつけてもこなしやがる、もしかするとお前が本当に出来の良い猟犬なんじゃあねえかと、悪夢のようなことも考えちまった。だが、やはり俺の勘は正しかったようだな……残り少ない命火だ、己を惜しんで走馬灯を見るくらい許してやってもいいぜ」

 おお、しかもポエミー。彼わりとメルヘン志向なんだろうか。思わず笑いが漏れてしまった。

「……何笑ってやがる」
「いや……逃がしたネズミに向かって随分饒舌におしゃべりをするものだから、えらく好きなんだなと思って。ASPCAにでも入っているのか?」

 なんつって。

「テメエ……!」

 適当な事を言ってみたらムカ着火ファイヤー状態になったらしく、おそらく石材の塀でびくともしないだろうにガンガン連射してきた。
 銃器の類はFBIにまとめて回収してもらったものの、幸い念のため護身用に一丁手元に残している。持っててよかったP226。
 ジンのベレッタは恐らく装弾数が7だか8だかだったはずなので、銃声を数え、途切れた瞬間に塀からさっと身を出して一発お見舞いする。
 ぐうと呻いて体はよろめいたが、怪我を負った様子ではない。9mmx17弾でもけろりとしているのだから、あの暑苦しい黒コートの下にはIIA以上のそこそこ良い防弾ベストを着ていたようだ。体幹を狙っても行動不能になるような効果は与えられそうにない。

 だからといって下手に頭などを狙って殺してしまってもいけない。ううん、どうしようか。

「――おわっ」

 ちらりと様子を伺いに顔を出したら、右肩に衝撃を受けた。
 どうやらもう一丁持っていたらしい。意外と抜け目ないジンさんだ。よく見えなかったがSIG、もしかしたらお揃いだろうか。
 俺もFBIから貰った防弾ベストを着ていたのだが、ベストとの名の通り胴しか保護はされておらず、普通に負傷してしまった。それなりにダメージがあったようで、どうも腕の動きが鈍くなっている。指先から血液が滴る感触がした。

 近づいてくる、息を漏らすような笑い声と、特徴的な革靴の音。
 塀のこちら側はトラックが幾台も停れるほどの駐車場が広がっており、数十メートルは隠れるところが見当たらない。そんな中建物まで下手に走っていこうものなら背後から撃たれそうだ。困った。

 いよいよヤバいかな、というとき。
 ――白馬の王子様ならぬ黒いフォードエクスペディション様が、すごい勢いで俺とジンの間に突っ込んできた。

「get in!」

 一瞬停まったその車に飛び乗ると、駐車場をターンしたのだろうGがかかり、踏ん張りきれずにシートに突っ込む。
 それからエンジンを酷使するような加速があって、ガン! ガン! と、銃撃を受けているのだろう激しい音が、次第になくなっていった。



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