14 |
「――昴さん、大丈夫?」 少しトーンが落ち気味ではあるが、その声は耳に刺さったイヤホンから聞こえる尋問タイムよりも鮮烈に響いた。 チャイムも押さずやって来たのはコナン君である。どちらかといえば家主に近いのは彼だから当たり前だが。 いいから、と止められたものの、ソファには惰性で寝っ転がっていただけなので体を起こす。そうすると隣にぴょこりと座ってきた。 「ああ、一応軽くは把握できたけれど、充分にはいかなかったよ、すまない」 「そうじゃなくて……自律神経失調症ってホント?」 「……なぜそれを?」 「あ、ええと、博士から聞いたんだ! メールで!」 「そうか。いいや、口からでまかせだよ」 阿笠氏ずいぶんお口のフットワーク軽いんだな。ずっとあの子のお説教受けてたように思うが、小休止のときにせっせか打ったのか。その俊敏さをこの大根のフォローに使ってほしかったというのはワガママすぎか。 コナン君は、なんだあ、と微妙な顔で息をつき、今日も泊まるねと言って笑った。 彼はなぜか一通りの使い勝手を教えたあともちょこちょここうして泊まりに来ている。木馬荘には来なかったのに、この屋敷の造りが好きなのか本が好きなのか、はたまた“シンイチ”の家だからか。 毛利探偵もよくこんな湧いて出た男のところへ泊まりに行くのをホイホイ許可するもんだと思ったら、阿笠氏宅へ泊まると言っているらしい。相変わらず便利に使われている。 そのまましばらくの間、各々本を読んだりテレビを見たりしてまったり過ごし、コナン君がお腹が空いたあたりで晩御飯を作った。 「うーん、ちょっと薄いかも」 「なるほど……」 さすがのコナン君も料理スキルはさほど高くないらしいものの、正直なところをはっきり言ってほしいと頼んでいるのでダメ出しをしてくれる。ネットのレシピはピンキリでいかんな。 毎度毎度まずい飯を食わせて申し訳ないが、お陰で多少はマシになってきているらしい。下手くそなそれらの小さなところを褒め、昴さんの料理好きだよとも言ってくれるあたりといい、将来はいい旦那さんになりそうである。あの子もこういう人に貰われてほしい。 食後に風呂や歯磨きを済ませると、またベッドでゴロゴロしようと誘われた。眠たいなら先に寝ててもいいと言ったのだが、寂しいから一緒がいいという。なんだかんだまだ小学生なんだな。 ダブルほどありそうな少し広めのベッドに並んで足を伸ばして座り、また勧められた本を読んだりその内容について語る声に相槌を打ちつつ耳を傾けたりする。 その最中、コナン君が思い出したように顔を上げ、俺の瞳を覗き込んできた。 「ねえ、昴さん。トーヤって何から取った呼び名?」 「トーヤ……?」 「ジョディ先生にそう呼ばれてたでしょ」 「いや……どうしたんだい?」 「この前の怪盗キッドの事件は知ってるよね」 「ああ」 つい先日、街のど真ん中に設置した宝石を瞬間移動して盗んだ怪盗キッドを見事推理拳で追い詰め撃退したんだとかで、お手柄小学生の記事はデカデカと新聞の一面を飾っていた。 テレビで生中継もしていたらしい。特に興味があるわけでもなくリアルタイムで追いはしなかったが、ネットにアップされているらしいので、あとで見ようと思えば見れるだろう。 「その時キッドに聞かれたんだ。“近衛十夜って人を知らないか”って」 「……悪いけど、覚えがないな」 まさか俺だとでも言うのか。ジョディは俺のことをシュウと呼ぶし、なんかの聞き間違いなんじゃないかね。怪盗キッドと面識なんてないしなあ。 キッドの探し人となると、ドロボー仲間かお宝の持ち主かなんかか。彼はよく大きな宝石を狙っていると聞くが、そういうセレブな知り合いは残念ながらいない。人脈でコナン君に叶わない俺に聞いてもどうしようもないだろそれ。新聞で一緒に乗っていた鈴木財閥のおっさんの方が詳しいんじゃないかな。 コナン君はわずかに難しい顔で悩む素振りを見せたあと、「そっか」と話題を切り上げた。いつも役立たずですまん。後でちょっと調べておくべきだろうか。 ごろんと膝に転がってきた頭を撫でる。 そうしてぼんやりしていると、いつの間にか意識が飛ぶ。知らず気が抜けてるのか、彼が訪れるとよくあることだった。 |