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 病院付近で火事が起きたらしい。コナン君と一緒に様子を見るためナースステーション近くへ向かえば、赤井秀一宛に荷物が届いているとかそんな患者はいないとかのやり取りが聞こえてきた。
 それ俺ですわーと言って宅配業者から受け取った荷物は、どこからどうみても鉢植えの形をしていた。別に入院患者というわけではないにしろ、病院への贈り物でそれはどうなんだ。むしろ寝付けということだろうか。
 差出人は楠田陸道、ゆうしゃの名を騙るのが何者かはなんとなく想像がつく。ウィンチェスターのお礼かな、一発一ドルもしないから気にしなくていいのに。
 手荷物検査はやれても郵便物まで中を覗いて回るのは難しいという点を突いたナイスアイデアではある。

 コナン君にとりあえずジェイムズさんのところへ行こうと言われて駐車場へ向かうと、彼と一緒にジョディの姿もあった。俺を見てそろりと目を逸らす彼女に申し訳なくなる。ごめんな、いじめのつもりでやったんじゃないんだ。

「どうしたんだ」
「宅配にこれが」
「赤井さん宛に届いたんだよ」
「コロンバイン……日本では“おだまき”と呼ばれている花だな……」

 包装を開封して見せてみたところ、ジェイムズが当たり前のようにそう言った。すごいな、俺は花なんてひまわりとチューリップぐらいしか知らない――というのは言い過ぎだが、ビジュアルと名前がさほど結びついていないのでパッと見では分からん。
 コナン君によれば、“必ず手に入れる”“断固として勝つ”といった花言葉があるんだそうだ。さすがのデータ量だコナペディア。
 宣戦布告だったら洒落てるが、本当にそれだけであればわざわざ働かされた業者のお兄さんがかわいそうだ。

「どういう意図なのかしら……」
「……」

 茎を指先でつまみ、その先に咲く花をしげしげ眺めてみる。苧環との呼び名は巻いた麻糸に似ている姿が由来だったはずだが、いまいちそういう風には見えない。うーん、ラブレターかな。
 しづやしづ、賤のをだまき繰り返し、昔を今になすよしもがな――なんつって、流石のメルヘンさんでもそんな鎌倉風ポエムを歌ったりはしないか。ここで雪でも送り返したらヘイト値天元突破しそうだ。
 そんな花や歌を送り合うような雅な関係じゃないだろうと鉢植えを地面に置いて手を突っ込んだところで、ジェイムズの無線に通信が入る。

『――こちら正面玄関のマイヤー! 病院の玄関口にケガ人や病人が殺到していてとてもチェックできません!』

 先程から駐車場が騒がしいと思ったら、どうも食中毒・異臭騒ぎ・火災と三箇所で同時に事故が起きたらしい。事故というかゲリラというか。
 駅と映画館であったという異臭騒ぎと火災はまだしも、飲食に致命的な食中毒モドキなどとやられたレストランは今後の経営が大変そうである。とばっちりも甚だしい。もう畳むか看板変えるしかないかもしれんな。なんてことするんだ、コナン君がナポリタン美味しいと言っていたのに。
 組織の方針としては幹を揺さぶって果実が落ちてくるのをキャッチするという感じらしい。ちょっとズボラさんだよな。

 もぞもぞと掘り起こした鉢植えの土からはなんともポップで可愛らしい時計が出てきた。大きくて見やすいのでお年寄りにおすすめだね。

「それ――」
「爆弾じゃないか」

 ジョディとジェイムズがびっくりしている。俺も若干びっくりだ。そんなに俺が目障りか。
 爆発までの時間はあと三十分というところである。見る限り単純に信管を外したりボマー捕まえたと言うだけでは解除されそうにない。

「解体できるかね?」
「面倒な作りをしています、適当な所で爆発させたほうが無難かと」
「では赤井君――」
「いえ、私が行きます。シュウは残って」

 てめーに任せてらんねーとな。ジョディなら大丈夫か。
 じゃあ私のベンツ貸すよとジェイムズが彼女に鍵を渡したところで、事故による渋滞を知らせにやって来たキャメルが車で行くなら俺のドラテクと土地勘が火を吹くぜと言い、彼に任せるのが不安らしいジョディと一緒に駆けていった。
 ユニットが違って面識がなかったからなんだろうが、えらく警戒されているようだ。水無怜奈の身柄を手元に留めておきたがっているジョディたちからしたらその疑心は間違いじゃないんだから、直感というのもなかなか馬鹿に出来ないもんである。

「これだけではないでしょうね、中を見てきます」
「ああ、頼む」

 取りあえずただの鉢植えになったそれは備品を載せているバンに置いておいて、再度エントランスへ向かう。
 その途中、隣を歩くコナン君が難しそうな顔をして口を開いた。

「……ねえ、ジンは赤井さんのこと殺したがってるって言ってたよね」
「ああ」
「組織にいた頃、命令されて従ってたんでしょ」
「まあ」
「一緒に仕事をしたことはないの?」
「二度だけ。だがほとんどドライブと変わらなかった」
「ど、ドライブ……二人で?」
「そうだ」 

 少しの間考え込み「ちょっと電話してくるね」と言った彼と別れ、事故の被害者で溢れかえり混雑したロビーを見回し、ひとまずやたらと目につく宅配業者に接触を図ってみることにした。マルチプルポスティングかなあ。


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