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軽く調べただけでも、差出人楠田陸道の荷物が多数の業者によって大量に届いており、しかもその見舞い品には尽くプラスチック爆弾が仕込まれていた。せっせと作った爆弾職人のことを思うと泣ける。 さらには配り終えられたそれらを、おだまき爆弾を無事処理してきたジョディたちと捜査官一同で回収中、今度は病院内のテレビがジャックされて水無怜奈快癒のコラ映像が流れ出し、止める間もなく皆ウッカリ彼女の病室に集まってしまった。爆発まで数時間もかかるような、随分簡単な構造の、発信器のついたプラスチック爆弾を持ったまま。 「こうなればここに長居は無用だ、病院から脱出しよう」 あまりに綺麗にハマっている。後手後手だ。これにはあのジンさんもニッコリだろう。 植木鉢も事故も爆弾も発信器もフェイクである。攻勢を見せて病院への被害や水無怜奈の殺害を匂わせ、所在を探り当てた、もう間もなく仕掛けてくると焦らせ揺さぶり外へと誘き出すための。 彼らは一応世を忍ぶ組織なのだ。一般人もFBIもウジャウジャいて下手すればすぐに警察が来てしまう大病院にアサルトライフル持って突っ込んでいくような真似は極力避けるしできない。はず。一応。多分。派手だが。 しかしだからといってこのままにしていて好転する可能性は低いので現状他に取れる選択肢はない。 彼らを出し抜いてかつ水無怜奈を手元に置いておくためには、ジョディが最初からさんざん言っていたように早い内から、ウマウマお姉さんがやってくる前に意識障害だろうとなんだろうと本部にでも送りつけておくべきだったのである。 そういうなりふり構わない行動を出来ないのが痩せても枯れてもおまわりさんの辛いところだな。 やろうやろうと言うだけならタダだが、決断して手配と交渉を行い、増員で膨れた数十名の捜査官達を指揮するジェイムズの責任は重い。向こうでのしがらみもあれば、有事に本部からビービー言われるのも彼だ。まあその辺りはさして気にしてもいないようだが、おケツ丸出し男爆発四散の前例もあってか移動中に襲われるリスクをかなり憂慮したようだし。これがおおっぴらに捜査だと言ってIDカードとバッジを見せられる本国での話ならまた違っただろう。 ともかく、取る手法まではわからなかったものの、結果はコナン君の言う通りだ。未来日記でも持ってるんだろうか。 「――ボクの知り合いのおじさんのビートルに乗せて運ばない? その悪い人達はきっとストレッチャーが載せられる大きい車で運ぶって思ってるだろうから、絶対にバレないと思うよ!」 そう言いだしたコナン君の声がして、おっといかんいかんと彼の携帯を取り上げた。どうもブリッ子してたりウソこいてるときは微妙に鮮烈さに欠ける。 「やめておけ。何かあったとき彼だけでなくその身内にまで危険が及ぶ」 「……う、うん……」 ジョディの視線が痛い。 なんだろう、私のダーリンにつべこべいらん口叩くなとかだろうか。それにしてはコナン君もなんだか眉根をぎゅうと寄せている。 「発信器を逆に使ってやりましょう」 「というと――」 「発想は悪くない。この子の言う事を、別のやり方でやればいいんですよ。肝心なのは水無怜奈が奴らの手に渡ってしまわないという事だ。その爪がかからぬよう、まさかそこにはいまいと思わせる状態を作れば所在はどこでもいいわけです」 コナン君が大筋は作ってくれているが、アドリブ芸って難しいもんだ。もう台詞からバミリから全部やってほしい。甘ったれたことぬかすなとまた叱られるかもしれんのでそんな駄々はこねないけれども。 とりあえず発信器に気づいてないフリして持ったまま乗り込み、そのうちの一つを水無怜奈に持たせて人員の少ないバンに座らせ、他の水無怜奈モドキが乗ったバンで移動先と思われる場所に向かい、ガチ水無怜奈カーはしれっと病院に帰ってきたらいいじゃないですかーとコナン君からの受け売りをそのままペロッと言う。 そんでもって水無カーのドライバーにはドラテクと土地勘と肝っ玉というもはやキャメル以外にいないような条件を提示する。 「君はどうなんだね?」 「名指しで爆弾を送りつけるほどですよ」 むう、と唸るジェイムズに、予定通り挙手したキャメルが抜擢された。 他に乗り込む面子に走行ルートや連絡手段や配置等を決め、早速行動しようとバンに乗り込む面子がジェイムズとともにぞろぞろと部屋を出て行く。それを見送るジョディの顔は冴えない。 彼女はちらちらと控え目に俺を見やり、間にコナン君を挟んでそっと近寄ってきた。 「……ねえ」 「ん?」 「ええと、彼に見覚えないかしら? あの、運転手になった、キャメル捜査官」 「いいや……」 「そう……あなたはどうするの?」 「別口から援護するつもりだ」 「私も行くわ」 想定外の申し出に、思わずコナン君を見下ろしてしまった。彼は慌てたようにして若干悩み、頷きを返してくる。その様子を見てジョディが半眼になった。 「なーに? またコナン君と一緒に行くつもりだったの」 「……まあ」 「え、えへへ……」 腰に手を当て、俺とコナン君を交互にじとりと見遣り、ふうんと息を漏らす。ダーリンを取られておこなのは分かるが、もう少しで返すんで容赦してほしい。 ともかくジェイムズに伝えて三人でやや離れた駐車場へ向かい、俺の車に乗ることとなった。 |