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「――ライ。本当にFBI捜査官だったのね」

 寝起きも超スッキリな眠り姫水無怜奈ことキールこと本堂瑛海は、弟がマッチョにドナドナされていくのを見送ると、ベッドに横になったまま何故自分がCIAの諜報員だと分かったのかを問い、コナン君にあれやこれやを指摘されてノックガチバトル事件の真相を語り、俺の顔を見てそう言った。

「……俺はキールを知らなかったが」
「そのはずよ」

 どういうこっちゃと首を傾げると、彼女が皮肉げに笑う。

「父からも言われていたの。あのスコープに捕らえられるようなことにはなるな、目をつけられるなと。――“猟犬”のライにね」
「……」

 なんだその厨二臭い二つ名みたいなやつは。
 四年前といえばコードネームを貰ってしばらくのときのはずだ。大したことはしていないし、別にそんな風に呼ばれたような覚えもない。ジンが別れ際に何か言ってた気もするが。

「ノックだったなんて信じがたかったわ。貴方は特に容赦がなかった。無駄吠えもせずジンの命令に忠実で、彼は確実を期したいとき貴方をよく使った……」

 ジンから直接命令されていたのはあいつと仕事をするちょっと前くらいからだ。
 それまでも組織の一員としてあれしろこれしろと指示された通りにはしていたものの、大抵他の幹部や連絡役からで電話でのものも多かったし、それらはほとんど発した人間かボスからのもんだと思っていた。
 まさかあいつだったのか。暇を持て余したジンさんの遊びだったのか。自分でやればいいのにな。そんでもって直接言えばいいのにな。実はメルヘンに加えシャイなのか?

「ただの雑用みたいなものだった」
「そんなこと言えるの貴方くらいよ。同じ仕事をこなせなくて死んだ奴が幾人もいたわ」
「あいつは俺が嫌いだろう」
「手を噛まれて腹を立てたんでしょ」
「はじめから」
「…………なるほどね。思い出話はいらないみたい。時間がいくらあっても足りないし――それで、まさか私に、もう一度組織に戻れなんて言うのかしら?」

 Exactly(そのとおりでございます)。ううん、CIAのお姉さんは一味違う。

 それから本堂瑛海は、潜入捜査官として組織へ戻って得た情報をFBIへ流すかわり、弟・瑛祐に証人保護プログラムを受けさせてやってくれとの要求をしてきた。ついでにあくまでCIAとしての仕事を優先させるからと。
 そこらへんはまあ当たり前だ。コナン君からもそうするべきだと言われていたので異論はない。
 FBIに不都合があっても文句言うなというのもフツーの話である。性質の違う組織なのだから、双方のスタンダードを同時に適用しようとすれば明らかに立ち回りに制限かかかってしまうし、軋轢が生まれて致命的な綻びになると目に見えている。ただでさえアルカイダだの何だのとそんなに仲のいい組織じゃないのだ。しかもぶっちゃけFBIは他機関とお手々取り合うのはあまりお上手でない様子なんだよなあ。

 ともあれ概ねコナン君の想定通りの受け答えだったので、適当に話を合わせたり合いの手打ったりで取引はスムーズに済んだ。
 じゃああとは手筈通りに、なんて去り際、本堂瑛海はシニカルな笑みを俺に向けた。

「――貴方、今のご主人様を大事にした方がいいわよ」

 そうするワンとでも答えればいいのか。一体誰のことを指しているんだ。何故この人はやたらと俺を犬扱いしてくるんだ。

「赤井さん、行こう」

 よくわからないまま微妙な顔したコナン君に裾を引かれ、黙って部屋を出た。


 コナン君と二人、もじゃもじゃとたのしい図工を行ってから遅れて作戦会議の部屋に入ると、何やってたのとジョディに怒られた。ほとんど終わりかけだったらしい。
 部屋にはストレッチャーが三台あり、さらには駐車場にバンを三台用意しているとのこと。いざとなったらそれで撹乱しつつ移動させるつもりらしい。もうバッチリお目覚めだから今動かしちゃってもいいんだけども。
 ジェイムズに水を向けられて、まあいいんじゃないですかね、と言ったらまもなく解散となった。
 退室前にトンズラこくときはドラテクのあるオレを使ってよアピールをしたキャメルは、ジョディにだいぶ不信感を持たれたようだ。単にコナン君の台本通りなはずだが、顔が怖いってマイナスポイントだなあとしみじみ感じる。

「ねえ、シュウ、」

 腕を触られかけ、細工を施した指先に気づかれるんじゃないかと、思わずぱっと避けてしまった。

「あ……」
「……悪い」

 予想以上に傷ついた顔をされてしまった。コミュ障ぼっちならともかく美人はあまりそういう行為をされた事がないんだろう。いかんいかん。

「なんだ?」
「…………いえ、その、ちゃんと寝てる?」
「ああ……ジョディも休めよ」

 相変わらずのいらんことしいだしなるべく面見せないでおこうと、適当言って俺も部屋を出た。

 次に目を開けたとき何時間後になるか分からないのだ。さすがにこの状況で寝っ転がって気づいたら全部終わってましたはまずい。まあしばらくは持つだろう。


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