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 コナン君の見立てによると、組織は今回の件にかこつけて、キールが戻ればほぼ確、そうでなくともかなりの確率で俺を殺そうとしてくるらしい。
 まあありうる。もともと制裁対象である裏切り者な上、向こうの行動を邪魔するように動いては姿を見られているし、なによりジンの俺に対するヘイト値は相当高いはずだ。
 そして、そのキレキレの言動からしてもこれまでの貢献度からしても、コナン君に作戦があるというならば乗るのは悪くない。

 そう思ってふんふんなるほど大義のために死ねってね、オッケーどうする? って聞いたらそういう話じゃねーよてめーと結構な勢いで叱られてしまった。俺の死体は利用価値/Zeroなんだってよ。シボレーの荷台を棺桶よろしくして寝てるゆうしゃより使えないらしい。可燃ゴミかな。
 もういいからとにかく言うこと聞けやとまで言われてしまうダメっぷりであるので、素直にまるっと従うことにした。キチンと意図が掴めない残念な大人で申し訳ない。反面教師としては優秀なんではないかとの自負はある。
 えらい言い草ではあったものの、あの声でバシリと説き伏せられるのはどこか気持ちが良かったりしたようなしないような、まさか俺はショタコンのドMなんだろうかと己の隠された性癖の可能性にちょっぴり戦慄したり。いやそんなばかな。

 協力者があと一人ほど欲しい、しかも真実味を持たせるため出来る限り実行する俺たち以外には味方であれ伏せ極力悟らせたくないと言われ、ぼっちでハブられ気味の俺は人選に迷った。
 チームの面子や割り振り的に一人だけ抜くのは難しいし、それなりの期間ずっと一緒に寝起きと仕事をしてるもんだから雰囲気で何かあると察してしまいそうだ。技量にも若干不安がある。
 組織のアクションまで間に合うかは微妙なところだがいっそのこと誰か呼び寄せるかとニューヨーク支部に連絡を取ってみれば『なんだ、それならアンディが向かったじゃないか!』と笑われた。
 『ドラテクもあるからうってつけだ!』と。はて。


 ――組織が本格的に探りに来たと知れた時点で、ジェイムズは増員のための交渉や調整をしてはいたらしい。俺がえんやこらと事故処理している間に、ひとまず急いで呼び寄せた暫定の人員が着いたんだとか。

「お久しぶりです、赤井さん」

 ニューヨークの彼に教えてもらった連絡先でこっそり空き部屋に呼び出すと、また筋肉量が増えたんじゃないかという逞しい体で、ガバリとハグをされた。

「あ、ああ……」

 そんな仲だったっけ俺たち。びっくりしてちょっと固まってしまった。
 やっぱり掘られるのかと少し怖々としながらも、コナン君と一緒に経緯の説明をし、協力してくれと頼み込む。

「危険だし、仲間から疑われることにもなると思うが……やってくれるか」
「もちろんです。他でもない、赤井さんの頼みですから」

 アンディことアンドレ・キャメルはその強面で目一杯ニカリと笑う。あれから助言どおり笑顔の練習してたのか、以前に比べてちょっぴり愛嬌が増した気がする。
 彼は俺のためにわざわざ自ら名乗りを上げてやって来たのだと、だから当然だと言って、失敗すれば死ぬかもしれないというのに、無茶振りを快く承諾してくれた。イケメン、抱いて! ……やっぱりケツはよして!

「髪が伸びたな」
「……赤井さんは切ってしまったんですね」
「まあな、軽くなった」

 なんだか寂しそうな顔をされた。ロンゲフェチだったんだろうか。

 イケメンキャメルは外の警戒を指示されているのだという。あまり長い間姿を消すのもまずいだろうと、コナン君が作戦の概要だけざっと話し、一旦別れて別の仕込みもやろうということになった。


 向かった先は水無怜奈の病室だ。
 部下と見張りを代わり、あの不思議な蝶ネクタイで呼び出された振りをして部屋を空ければ、“シンイチ”の友人に匿われていた、姉を捜しているという例の少年がホイホイと入っていった。
 コナン君によれば少年は昔白血病だったらしい。キールのノックガチバトル事件も含めて考えると高確率で実の姉弟である。

 コソコソと電話でキャメルに作戦の詳細を伝えつつ部屋の中へ注意を向けていると、扉越しに少年の不穏な台詞が聞こえた。彼は水無怜奈を、姉を騙る別の何者かだと考えている様子だ。
 このまま行くと火サス展開になるんじゃないかという雰囲気だったが、中に潜んでいたコナン君が血液型のカラクリを教えはじめたようである。骨髄移植のせいじゃよーとな。HLAがどうのなどとよくスンナリ出てくるもんだ、俺よりよっぽどウィキペディアっぽい。
 それにしても一応銃を持った俺が控えているとはいえ、相手は凶器を持っているようなのに相変わらず恐れを知らんなコナン君は。

『ちょっと妻から電話が入って……』

 ふいに携帯のスピーカーから、何やら話しかけられたらしいキャメルがそんなことほざいてるのが聞こえたもんでちょっと動揺した。
 もっと何かあるだろ。よりにもよって俺を誤魔化すのに妻というのか。お前はタチなのか。
 いや、違うとは分かっているものの、あんまりジョークを言う奴ではないというのが心臓に悪い。……違うんだよな?

「……キャメル……」
『すみません。作戦会議だそうで』

 移動を命じられたということなので、通りがかりに本堂瑛祐を回収してもらうことにした。
 姉弟水入らずにしてやりたいが、これ以上突っ込まれるとちょっと責任取れない。俺の首はもうコナン君のために取っているので無理なんだ、すまん。


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