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「今日はDr新出と上野美術館でデートですー♥」

 などと言うジョディと新出先生(偽)が腕組んでるのを尾行、もとい見守りつつ、お似合いカップルに見えるが実質あれ百合なんだよなあとか生ぬるい視線を送っている間に、なんと乗り込んだバスがジャックされてしまった。
 今日はバスジャック犯と都内デートですー♥ ってんなアホな。

「――要求はただ一つ! 今、服役中の矢島邦男の釈放だ!! できなければ一時間おきに乗客を一人ずつぶっ殺すと警察に伝えろ!」

 ですって。誰だよそいつ。知らんがな。
 どうも言動や手口を見るに明らかに“彼女”の仲間ではなさそうである。つまりはたまたま遭遇している。
 これは俺と“彼女”のどっちが幸運Eなんだろう。
 どっちも? 一緒にお祓い行ったほうがいい?


「ああ、すみません……」

 バス会社への電話を終え乗客の携帯を回収しだしたジャック犯の一人に、俺は持っていないと答えた。
 嘘じゃない。ハンディートーキーとPDAは持っているが、邪魔になるので使う予定のなかった携帯電話は置いてきたのである。通信機器と言われれば出したかもしれない。一言で信じるなんて素直さんだな。とりあえずゴホゴホやっておく。
 素直さんはそのまま俺の隣二人にもイチャモンをつけ、反抗的なガムおばさんに脅しの一発をぶちかました。
 逃亡計画がどんなもんか知らんが、組織並みの資金力とバックアップがないんならあんまりがすがす撃たない方がいいと思うな。いざというときアモアモ言ってる間に死ぬぞ。

「わ、わかりました……大人しくしてます……」
「最初からそうしてりゃいいんだよ……」
「……」

 ――大脳辺縁系の働きにより人間は、生命の危機を感じたとき全身がその対応に集中するし、その瞬間や以降の身体状況と表出する行動は、刺激のある以前と比べ確実に変化がある。しかもそれは脳の動物的な部分に由来するため、思考を介さない。
 ゆえに意識してどうこうなるものではないはずなのだが、身を固くして冷や汗をかいているおじいさんと違って、至近距離で発砲されたガムおばさんには乗車直後と変化した挙動や反応が見られない。
 一時は慌てたような様子を見せはしたもののすぐまたクチャクチャとガムをかみ始め、この状態はオレにとって昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わらない平穏なものとでも言わんばかりだ。はて。

「Oh〜〜〜sorry!!」

 横目でおばさんを観察していると、踵を返した素直さんをジョディが綺麗なおみ足で転ばせ、そのどさくさに紛れて彼が所持していたトカレフのセーフティをかけた。ワザマエ!
 流石ジョディさん、俺たちにできないことを平然とやってのける! そこにシビれるあこがれるゥ。
 いや、技術としては多分やろうと思えばできないこともないだろうが、ああして手を握って申し訳なさそうな顔を見せわあわあ捲し立てるだけで許されるのは美女だからだろう。自分の強みを分かってるのも素晴らしい。

「ああもういい……席に座ってろ!」

 結構アレなこと言われまくっていたのに引く素直さんはほんと素直さんだな。背を向けた彼を見送って、席に戻ったジョディは可愛らしい笑顔で少年にこそりと話しかけた。

「わくわくしちゃうわね!」

 …………さっきからジョディ先生が思いの外ひょうきんで面食らう。なんかもっとキレイでセクシーなオトナのお姉さん先生を想像していた。
 ついには呑気にカタコトの日本語で”彼女”に話しかけはじめるし、明らかに一般人の反応ではない。
 ヘタクソなカタコトも可愛くていいと思うけど、なんというかちょっとそのキャラエキセントリックすぎじゃないかジョディさん。


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