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 ……おや。

「――止めてください、ただの子供のイタズラですよ! 今ここでこの子を殺せば、あなた方の計画が狂うんじゃないですか?」
「何だとこの青二才……」
「やめろ! 弾がそれてアレに当たったら――」

 さっきから“彼女”のターゲットかもしれない少年がゴソゴソモゾモゾとやらかして犯人に怒られまくっていたのだが、少年に銃を向けた犯人の前に、新出先生(偽)が身を滑り出させた。
 始末したいのであれば、手を下さずにただの不幸な事件で済ませられるため、ここで撃ってくれて万々歳のはずだ。
 わざわざ庇うということは少年を生け捕りにしたいんだろうか。それとも単にまだ必要な情報を引き出せていないか、目標が一人残ってるから“新出智明”として致し方なくなのか。
 できれば志保ともどもアライブオンリーであってほしいけれど、後者の可能性のほうが高そうだな。あまり必死な様子でもないし。
 新出先生(真)はそんなこと言わない。彼の安穏な笑顔が恋しい。

 ちなみに少年は、ジョディの情報によると“江戸川コナン君”といったはず。なかなかのキラキラネームである。親御さんは若そうだ。
 コナン君は叩きつけられ銃をつきつけられ危うく殺されかけたというのにも関わらず、“彼女”に庇われたあともそわそわちらちらこちらを伺ってきている。
 この状況でもじっとしていられないとは、ちょっと多動ぎみな子なのだろうか。庇ってくれた“彼女”に礼も言わず、犯人達に対して萎縮もせず、そんなことより周りが気になるようである。
 保護者らしいアロンジュみたいな髪型のおじさんは風邪を引いているようで監督責任を果たせそうにない感じだし、ジョディは少年と一緒になってこちょこちょ喋ってるだけで諌める様子が全くない。むしろ犯人にキレられるわ、“彼女”に諭されるわといった始末である。
本当にキャラでやってるのか疑わしくなってきた。ストレスで躁鬱になってない? 俺のお薬いる?

『視認は維持していますが、詰めますか?』

 チラッとPDAを見ればメッセージが来ていた。しかしとりあえず待機待機。

「……ごほごほ」

 ――子供の扱いはさっぱり分からないが、首根っこひっ捕まえて膝にでも乗せておくべきだろうか。
 これあんまりほっぽってると流石に本気で殺されるだろ。変に彼らを刺激されてとばっちり食らうのも嫌だし、次動きかけたら目をつけられる前に回収して人間シートベルトでもやったほうがマシな気がする。
 そんなこと考えつつコナン君を見つめていたら、目が合ってギクリとされ、コンマで慌てて逸らされた。子供ウケする顔ではないことは知ってても、お兄さんちょっぴり傷つくよそれ。


 にしても彼らはどうしてこのバスを選んでしまったんだろう。
 そこに座ってる百合ップルは片や銃社会アメリカで凶悪犯罪者達をバシバシしょっぴいてた美人FBI捜査官さん、片や元NYの通り魔で犯罪者歴二十年超の現役国際犯罪組織幹部の美魔女さん、ついでに俺も一応FBI捜査官だ。
 ジャックするにはだいぶツイてない面子である。さっさと降りて次を探したほうが成功率は上がるだろう。もしや彼らが幸運E?

 ふたりともぱっと見た限り訓練された動きではなく、どの座席からも清々しいほど丸見えの頭部に、いるのはこちらからは殆ど一直線上になる運転席近くの通路突き当り、しかも背中を向けながら犯人同士固まったり無防備に突っ立ったりしていて、相手が銃を所持している場合を想定しているようには全く思えない素振りである。
 それに加えてこんな回避行動も限定される狭い空間の、この距離で撃ちそびれを心配している輩だ。射撃の腕も抜くタイミングもダメなら読書と家庭菜園でもしてたほうがいいぞ、若者でもないだろうがニートさんを見習えよ。ニートさんのことクラエスって呼ぶのよせよ。
 ともかく相手は二人ないし三人、うち銃の所持はおそらく前述の二人のみ、射殺許可さえ出てしまえば、セーフティがかかっていない方からその露出した顔面にぱすぱすぶち込んでさっさと終わる案件だろう。ここが日本で修羅の国でもないのが惜しまれる。
 ああ、でも最後っ屁で起爆させられても困るな。


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